橈骨神経系 vs 尺骨神経系 末梢絞扼障害の比較

 

🔍 回答の読み方

  • 所見:問題を解くうえで “拾う” べきキーワードを 医学用語 で列挙

  • 解説:神経走行・支配筋・感覚枝・病態生理を絡めて一つずつ丁寧に説明

  • 脈絡のある 46 期公式過去問 の出題例を適宜引用し(📝マーカー付)、学習範囲との関連を示します


1⃣ 橈骨神経系 vs 尺骨神経系 末梢絞扼障害の比較

区分後骨間神経麻痺(PIN palsy)橈骨神経高位麻痺(radial palsy)Guyon管症候群(尺骨低位)肘部管症候群(尺骨高位)
絞扼部位Frohseのアーチ(回外筋繊維性アーチ)橈骨神経溝・腋窩部など豆状骨・掌側手根靭帯下(Guyon管)肘部管(Osborne靭帯・尺骨神経溝)
主な障害筋指伸筋群(総指伸筋・短母指伸筋など)長橈側手根伸筋・腕撓骨筋まで骨間筋・虫様筋・母指内転筋低位+深指屈筋尺側半・尺側手根屈筋
運動麻痺下垂指:MP関節伸展障害のみ/手関節背屈は保たれる下垂手:手関節+指の背屈不能鷲手変形:環・小指MP過伸展+PIP/DIP屈曲鷲手変形+握力低下 (屈筋に及ぶ)
感覚障害なし(後骨間神経は運動枝のみ)橈側手背・母指〜環指橈側の背側皮膚掌尺側のみ(手背枝は近位で分岐)掌尺側+手背尺側(高位のため手背枝も障害)
Tinel徴候前腕背側近位上腕背側中央豆状骨遠位掌側肘後内側(尺骨神経溝)
代表的肢位MP関節伸展不能手関節背屈不能環・小指の鉤爪(鷲手)同左+環・小指DIP屈曲力低下

📝 過去問とのつながり

  • 後骨間神経麻痺を鑑別肢に含んだ Dupuytren 拘縮の問題 42 番 

  • 肘部管症候群の筋力低下肢(第一背側骨間筋・母指内転筋)を問う 23 番 

  • Guyon管 vs 肘部管 を鑑別させる臨床問題 43 番 

  • 橈骨神経高位麻痺(椅子の肘掛けで睡眠後の下垂手)58 番 


2⃣ 所見ごとの詳解

  1. MP関節伸展障害(下垂指)

    • 後骨間神経(C7–8)運動枝のみが障害 → 手関節背屈筋(長橈側手根伸筋)は上位で分岐し温存

    • 手関節背屈は可能だが、“指が握ったまま開かない” 状態が特徴

  2. 手関節背屈障害(下垂手)

    • 橈骨神経本幹または腋窩部損傷で長橈側手根伸筋も麻痺 → 手背屈位保持不能

    • 感覚枝(後前腕皮神経・浅枝)も巻き込み、橈側手背の異常感覚を伴う

  3. 鷲手変形(環・小指MP過伸展+PIP/DIP屈曲)

    • 骨間筋・虫様筋の遠位移行筋が麻痺し、外在筋の拮抗失調で claw hand 出現

    • 低位では屈筋温存 → “鉤” が強調、高位では FDP・FCU麻痺が加わり握力も低下

  4. 感覚障害パターン

    • 手背枝が肘上で分岐する尺骨神経:Guyon 管障害では手背感覚は保たれる

    • 後骨間神経は純運動神経であり、感覚障害はみられない

  5. Tinel徴候の局在診断

    • 豆状骨遠位掌側で陽性 → Guyon 管

    • 肘屈曲位で内側上顆後方をタッピング → Cubital tunnel


3⃣ 演習問題(5問)

形式:国試と同じ 5 肢択一
難易度:基礎〜臨床応用
解説では正誤根拠・関連知識を補足


Q1.

手関節背屈は可能だが、全指 MP 関節の伸展が不能。感覚障害は認めない。最も考えられる障害部位はどれか。
a) 橈骨神経溝   b) 後骨間神経   
c) Guyon管     d) 肘部管     
e) 正中神経前骨間枝

正解:b)
解説:運動枝のみの PIN 麻痺の典型。感覚枝を持たないため知覚は正常。橈骨神経溝(a)は下垂手を来す。Guyon 管(c)・肘部管(d)は尺骨神経領域で指外転/内転障害と掌尺側の感覚障害が出る。


Q2.

Cubital tunnel 症候群に特徴的で Guyon 管症候群ではみられにくい 変化はどれか。
a) 手関節掌屈力低下
b) 環指・小指の DIP 関節屈曲障害
c) 環指・小指の MP 関節過伸展
d) 第一背側骨間筋萎縮
e) 手背尺側の感覚低下

正解:e)
解説:手背枝は肘より近位で分岐するため、低位(Guyon 管)では温存される。a と b は高位で深指屈筋・尺側手根屈筋が麻痺すると出現。c と d はいずれの尺骨神経障害でも起こり得る。📝 23 番 


Q3.

橈骨神経麻痺による 下垂手 が出現した際、日常生活で最も支障を来す動作はどれか。
a) 箸を使う    b) ドアノブを回す
c) ペットボトルを握る d) キーボード入力
e) ズボンをはく

正解:b)
解説:手関節背屈が不可のため、前腕回内位でドアノブ回旋(背屈+回外成分)が困難。キーボードや食事動作は代償が可能な場合が多い。


Q4.

Tinel サインを肘部管で陽性とした患者。以下のうち 進行例で最も早期に出現しやすい 筋力低下はどれか。
a) 第一背側骨間筋外転力
b) 母指対立筋
c) 深指屈筋示指頭
d) 長橈側手根伸筋
e) 橈側手根屈筋

正解:a)
解説:尺骨神経高位麻痺では、手内筋(特に骨間筋)が早期に萎縮し外転力低下を呈する。b と c は正中神経支配。d は橈骨神経、e は正中+尺骨二重支配で影響されにくい。


Q5.

Guyon 管に腫瘍性病変(例:ガングリオン)が存在する場合、最も有用な画像検査はどれか。
a) 単純 X 線    b) 超音波検査
c) CT       d) MRI   e) 骨シンチグラム

正解:d)
解説:軟部腫瘍と神経路の関係を多断面で描出できる MRI が第一選択。超音波でも描出可能だが深部構造の評価は限定的。


4⃣ 総括

  • 橈骨神経系:感覚障害の有無で PIN 麻痺と高位麻痺を切り分ける

  • 尺骨神経系:手背枝の走行を押さえれば Guyon vs Cubital の鑑別が容易

  • 過去問の肢と照合しながら “拾う所見” を整理し、類似肢の 切り捨て根拠 を言語化することで、臨床でも国家試験でもブレない判断が身につく


Happy Studying! 😉

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