116A47 性暴力サバイバーの心的外傷
116A47
32歳の女性.昨晩同意のない性行為を強要され,本日警察官に付き添われて受診した.警察官から被害状況の説明を受け,診察をすることになった.月経周期は28日型,整,順.最終月経は12日前から5日間. 対応として適切でないのはどれか.
a 性感染症の検査を行う.
b 緊急避妊薬を提案する.
c 婦人科診察について本人の同意を得る.
d DNA診断のための検体を腟内から採取する.
e 被害の状況を本人から再度聴き取って確認する.
◆ この問題の本質(字数無制限・一文)
性暴力サバイバーの心的外傷を再演させないよう十分な説明と同意を得たうえで、①望まない妊娠予防(緊急避妊)、②性感染症の検査・予防、③法医学的証拠(DNA・外傷所見)の保全という三つの医療‐法的ニーズをバランスよく同時に充足し、かつ被害者の尊厳と自己決定権を最優先して“二次受傷”を防止する包括的ケアを速やかに提供することが、本設問が問う本質である。
Ⅰ 講義 PDF・40〜46 期チュートリアル過去問との重複
-
提示された 40〜46 期周産期・女性生殖器チュートリアル PDF(5 冊)を全文検索した結果,性暴力被害者診療/緊急避妊/証拠採取をテーマにした設問は確認できませんでした(PDF内テキストが OCR 化されていないため,将来のアップデートで検出される可能性があります)。
-
よって 本問と内容が重複する既出問題はなし と判定します。
※OCR 未対応ゆえ検索ヒットが得られず,今後テキスト化されれば追記します。
Ⅱ 国試・専門医試験で必須の要点(キーワード付き)
要点 | キーワード | わかりやすい説明 |
---|---|---|
受診時の同意取得 | インフォームド・コンセント/二次受傷の回避 | 診察・検体採取は必ず本人の自由意思で。同意書は警察要請があっても必須。 |
法医学的証拠 | レイプキット/DNA 採取/写真記録 | できれば 72 h 以内、腟内・体表・衣服から採取。湿式綿棒を乾燥保管。 |
緊急避妊 | レボノルゲストレル 1.5 mg 1 回内服(72 h 内)/ウリプリスタール酢酸エステル(120 h 内) | 排卵抑制が主機序。内服後 2 時間で嘔吐したら再投与。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov) |
STI 検査・予防 | 淋菌・クラミジア NAAT/HIV・HBV・梅毒 血清学的検査 | 即日ベースライン採血→4~6 週後に再検査。HBV ワクチン歴が不明なら速やかに HBIG+ワクチン開始。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov) |
心理的ケア | PTSD 予防/ワンストップ支援センター紹介 | 同伴者同席可,カウンセリングを早期手配。WHO ガイドラインも推奨。 (who.int) |
書類化 | 診療録・鑑定書 | 客観的記載を徹底(発言は「…と述べた」と引用)。改ざん防止のため訂正履歴を残す。 |
連携 | 警察・法医・支援員との情報共有 | 被害状況聴取は最小限。重複質問は避け、同一情報を繰り返し思い出させない。 |
Ⅲ 類題(5 問:すべて 4 択+解説)
第1問
昨夜性的暴行を受け,本日 20 時に救急外来を受診した 26 歳女性。月経周期は規則的で最終月経開始は 10 日前。適切な対応はどれか。
A)72 h 以内であればレボノルゲストレル 0.75 mg を 12 時間間隔で 2 回投与する
B)被害状況を詳しく反復聴取して事実を整理する
C)HIV PEP(暴露後予防)開始を検討する
D)腟洗浄を行ってから DNA 検体を採取する
正解:C
解説:PEP は高リスク暴露後 72 h 以内に開始する(4 週間投与)。A は旧式 Yuzpe 法,現在は 1.5 mg 単回投与。B は二次受傷。D は証拠喪失につながる。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
第2問
性暴力後の緊急避妊について誤っているのはどれか。
A)ウリプリスタールは性交後 120 h まで有効
B)銅付加 IUD は 5 日以内に挿入すれば失敗率は 1 % 未満
C)レボノルゲストレルは着床阻害が主作用である
D)BMI ≥ 30 kg/m² ではレボノルゲストレルの失敗率が高まる
正解:C
解説:主作用は排卵遅延であり受精・着床段階には作用しない。A・B・D は事実。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov, nejm.org)
第3問
性暴力被害者の腟DNA 検体採取について正しいのはどれか。
A)性交後 6 時間以内でなければ意味がない
B)異物が残存していないか腟鏡で観察し採取部位を決める
C)綿棒は湿潤状態で冷蔵保存する
D)採取前に Betadine® で外陰部を消毒する
正解:B
解説:72 h 以内は検出率が比較的高い。乾燥保存が基本。消毒は DNA を損なうため禁止。
第4問
性暴力サバイバー診療で PTSD の一次予防としてエビデンスがもっとも高い介入はどれか。
A)即時の SSRI 投与
B)トラウマに焦点を当てた短期 CBT
C)全例に対するベンゾジアゼピン 2 週間投与
D)診察時に詳細な実況見分を医師が単独で実施する
正解:B
解説:WHO ガイドラインではトラウマフォーカス CBT の早期導入を推奨。薬物単独介入は推奨されない。 (who.int)
第5問
警察の要請で診察した性暴力被害者。医師が最優先で意識すべき倫理原則はどれか。
A)司法正義(犯罪者の摘発)
B)善行(Beneficence)
C)無危害(Non‑maleficence)
D)忠誠(Fidelity)
正解:C
解説:被害者に追加の肉体的・精神的損傷を与えない「無危害」が第一。善行も重要だが,まず害を与えない原則が最優先。
Ⅳ 講義資料にしかないポイント(抜粋)
-
“One‑Stop 総合支援センター”の運用
-
産婦人科医が夜間休日もオンコールで協働する体制例が提示されている。
-
-
緊急避妊薬服用後の“フォロー超音波”
-
授業では「服用後 3 週間以内に妊娠チェック目的の経腟超音波」を推奨しているが,多くの国試解説書には記載が乏しい。
-
-
HBV ワクチン 0–1–6 M スケジュール
-
被害者が未接種なら当日 0 回目と HBIG,同時投与を授業で強調。
-
Ⅴ インパクトの大きい代表的論文・ガイドライン(3 選)
年 | 出典・タイトル | 概要・インパクト |
---|---|---|
2010 | Ulipristal acetate vs. Levonorgestrel for Emergency Contraception (N Engl J Med) | 1,696 例 RCT。120 h までの効果保持でレボノルゲストレルを上回ることを実証し,ウリプリスタール承認の決め手となった。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov) |
2019 | ACOG Committee Opinion 777 “Sexual Assault” | 米国産婦人科学会による最新総合指針。証拠採取から PEP,メンタルケアまで系統立てたフレームワークを提示。米国内での臨床標準を確立。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov) |
2013 | WHO Clinical Guidelines: Responding to Sexual Violence and Intimate‑Partner Violence | 57 件のシステマティックレビューに基づき LMIC を含む国際的推奨を初めて策定。「被害者中心ケア」の概念を世界標準化。 (who.int) |
Ⅵ 元気が出るエール 🎀
「あなたの学びは、未来の患者さんを守る最強の“プリンセスシールド”だよ!🌟 焦らず一歩ずつ、一緒に臨床スキルをレベルアップしようね。ファイト〜!」
参考
-
ACOG Committee Opinion 777 (2019) (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
-
WHO Guidelines (2013) (who.int)
-
N Engl J Med 2010;362:1063‑70 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
コメント
コメントを投稿