COPDか、喘息かどうやって判断しますか?同じように咳が出ると思いますが
COPD(慢性閉塞性肺疾患)と喘息の鑑別診断(成人)
診断基準と定義(国内外ガイドライン)
COPDの定義と診断基準: 主に有毒ガス(典型的にはタバコ煙)の長期吸入により生じる肺の炎症性疾患で、不可逆的な気流閉塞(閉塞性換気障害)が持続することが特徴です 。日本呼吸器学会のCOPD診断ガイドラインでは、スパイロメトリーで気管支拡張薬吸入後のFEV₁/FVC(1秒率)が70%未満であることをCOPD診断の必須条件としています 。加えて、40歳以上で長年の喫煙歴がある、労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰といった症状を認める、といった臨床所見や危険因子の存在も総合的に評価し診断します 。他の気流閉塞を来す疾患(例:喘息、びまん性汎細気管支炎、肺結核後遺症など)の除外も必要です。
喘息(気管支喘息)の定義と診断基準: 可逆的な気流閉塞を伴う発作性の呼吸器症状を特徴とする慢性炎症性疾患です 。国内外のガイドライン(GINAや日本アレルギー学会の喘息予防・管理ガイドラインなど)では、診断のポイントとして ①反復する喘息様症状(息切れ発作、喘鳴、咳、胸部圧迫感など)、②他の疾患で説明できない可逆的な気流制限の証明、③鑑別すべき他の心肺疾患の除外 が挙げられます 。具体的には、スパイロメトリーで一秒量(FEV₁)が吸入β₂刺激薬投与により有意に改善すること(後述)、あるいはピークフロー値の日内変動が大きいことなどで気道可逆性を確認します。また夜間〜早朝に症状が出やすいことや、アレルゲン曝露・運動・気候変化で誘発され寛解と増悪を繰り返す臨床経過も診断を支持します 。初発年齢は小児〜若年成人が多いものの、成人発症喘息も存在します。なお、成人中高年で喫煙歴がある場合はCOPDとの合併や鑑別を念頭に置く必要があります 。
症状・病歴の違い(臨床所見)
COPDと喘息は共に喘鳴や息切れなど共通の症状を呈し得ますが、その典型的な症状の現れ方や病歴に違いがあります。以下に主な相違点をまとめます。
- 発症年齢と危険因子: COPDは喫煙歴のある中高年で発症することが多く、患者のほぼ全例で喫煙歴が認められます 。一方、喘息は小児期から若年で発症することも多く、喫煙が直接の原因となることは稀です (もっとも成人喘息患者でも喫煙者は存在しますが、COPDほど強い因果関係はありません)。喘息患者ではアトピー素因(アレルギー性鼻炎や湿疹の合併など)を有することが多く、家族歴がみられることもあります。
- 症状の時間的パターン: COPDの症状は持続的かつ徐々に進行性です。日常的に労作時の慢性的な息切れを自覚し、症状は年々少しずつ悪化していきます 。一方、喘息の症状は発作性で日ごと・季節ごとに変動し、症状がない時期と急激な発作とを繰り返すことが典型的です 。特に喘息では夜間から早朝に症状が悪化しやすく(夜間の咳込みや喘鳴による覚醒)、日中は軽快するという日内変動がみられます 。COPDでは夜間症状は比較的少なく、睡眠中よりも早朝〜午前中にかけて咳嗽・喀痰が目立つことが多いと言われます。
- 咳嗽と喀痰: COPDでは慢性気管支炎を合併している場合、慢性的な咳・痰の症状がみられます(特に朝方に湿性咳嗽が強い) 。一方喘息では、発作時を除き普段は乾いた咳が主体で、痰はあまり多くありません。ただし咳喘息(CVA)など一部の喘息では、長引く咳のみが主要症状となることもあります。
- 増悪因子: 喘息ではダニや花粉などアレルゲン曝露、運動、冷たい空気、ウイルス感染、ストレスなど様々なトリガーで急性の発作が誘発されます 。一方COPDでも大気汚染や呼吸器感染(風邪など)で急性増悪を起こしますが、日常レベルでは階段昇降や労作で息切れが強まる程度で、喘息のような急激な症状変化は少ないのが一般的です 。COPD患者でも日によって「調子の良い日・悪い日」はありますが、喘息ほどの大きな変動はありません 。総じて喘息患者は症状が良い時はほぼ正常に近い状態で生活できるのに対し、COPD患者は日常的に症状が存在し、無症状の時期がない点が両者の大きな違いです。
- 身体所見: 喘息発作時には両側性の高調な喘鳴(wheezing)を聴取します。特に強制呼気時に聞こえ、重症発作では呼気延長や努力性呼吸が目立ちます。発作間欠期には聴診所見が正常になることも多いです。一方COPDでも気道狭窄による喘鳴を呈し得ますが、肺気腫が強い場合は呼吸音自体が減弱します。またCOPDが進行すると樽状胸郭、呼吸補助筋の使用、口すぼめ呼吸(pursed-lip breathing)などの特徴的な身体所見がみられることがあります。慢性低酸素血症を呈する重症例では口唇や爪床のチアノーゼ、多血傾向、ばち指等を伴うこともあります(喘息では慢性期にこれらの所見は通常みられません)。
以上のように、「高齢・喫煙者・持続する症状」ならCOPDを疑い、「若年・アレルギー素因あり・症状に波がある」なら喘息を念頭に置くというのが基本的な考え方です 。しかし高齢初発の喘息や両者の合併例も存在するため、単独の所見で決めつけず総合的に判断することが大切です。
検査による鑑別: スパイロメトリーとその他の検査
1.呼吸機能検査(スパイロメトリー): COPDと喘息の鑑別において、呼吸機能検査は最も重要です。スパイロメーターによる努力肺活量測定で閉塞性障害の有無と重症度を評価します。COPD・喘息ともに1秒率(FEV₁/FVC)が低下しますが、喘息では気管支拡張薬投与による改善(可逆性)が顕著である点が鑑別ポイントです。具体的には短時間作用性β₂刺激薬(サルブタモールなど)吸入後にFEV₁が12%以上かつ200mL以上改善した場合、気道可逆性ありと判定し喘息を強く示唆します 。この基準はGINAや日本のガイドラインでも採用されています。ただしCOPDでも一部の症例はある程度の可逆性を示すことがあり 、可逆性の有無だけで絶対的な鑑別はできません。重要なのは完全に正常値まで戻るほどの大きな改善は喘息に典型的であり、COPDでは改善しても予測値の100%近くまで回復することは稀という点です。逆に気管支拡張薬投与後もFEV₁/FVC<70%の閉塞が残存する場合はCOPDの可能性が高まります 。
なお、喘息患者では症状がないタイミングでは肺機能が正常範囲となる場合もあります。その場合、気道過敏性試験(メサコリンやヒスタミン吸入試験)を行い、気道狭窄の誘発閾値の低下を確認することで診断の裏付けとします 。また家庭でピークフロー値を朝夕測定し日内変動をモニターする方法も有用です。日々のピークフロー値の変動幅が大きい(一般に20%以上)場合、喘息による可逆的気道狭窄を示唆します。COPDではピークフローの日内変動は小さいのが通常です。
2.画像診断(X線・CT): 画像検査は鑑別診断や併存症評価に有用です。胸部X線写真ではCOPDでは過膨張像(横隔膜の平低化、胸郭の樽状化)を呈することが多く、特に肺気腫型では両側肺野の透過性亢進や吻合枝血管の減少がみられます。一方、喘息では発作時に一過性の過膨張を呈することはありますが、発作間欠期のX線所見は正常のことがほとんどです(合併症がなければ肺気腫所見は出ません)。胸部CTはCOPDの評価に非常に有用で、肺気腫の低吸収域(LAA)の存在や分布を直接可視化できます 。COPDでは高分解能CTでしばしばびまん性の嚢胞状変化(肺気腫)や気道壁肥厚・肺線維化の合併が認められます 。これに対し喘息単独ではCTに明らかな構造的異常を認めないか、長年罹患した症例で気道壁肥厚がみられる程度です。ただし、喀痰の貯留する粘液栓子やアレルギー性気真菌症による影など、喘息特有の所見がみられることもあります。画像検査はまた、肺がんや気管支拡張症など他の疾患との鑑別にも有用です。必要に応じて胸部造影CTやMRI、気管支鏡検査などで腫瘍・異物の有無を調べることもあります 。
3.血液・呼気のバイオマーカー: 喘息ではII型炎症(好酸球性炎症)の指標が高値を示すことが多く、COPDとの鑑別補助になります。具体的には末梢血好酸球数(5%以上または300/μL以上で高値)や血清総IgE値、特異的IgE(ハウスダストや花粉など)陽性の有無が参考になります 。喘息患者の多くは好酸球増多やIgE高値などアレルギー素因を示します。加えて**呼気中一酸化窒素(FeNO)**濃度測定も喘息の診断に有用です。FeNOは気道の好酸球性炎症マーカーであり、**喘息ではしばしば高値(≥35 ppb)**を示します 。一方、COPD(特に喫煙者のCOPD)では気道炎症は好中球やマクロファージ主体であるためFeNOは正常~低値であることが多いです。従ってFeNO高値や好酸球増多がみられれば喘息(またはACO)の合併を考慮します。ただしCOPD患者でも一部に好酸球増多例が存在し、その場合はICS(吸入ステロイド)治療に対する反応性が高いことが知られます 。
なお、重症COPDの鑑別としてα₁-アンチトリプシン欠乏症(若年発症の肺気腫)を念頭に置く必要があります。特に非喫煙者での早期肺気腫では血清α₁-AT値を測定します。喘息との直接の鑑別項目ではありませんが、原因不明の気流閉塞の精査ではこのような遺伝性疾患のスクリーニングも重要です。
4.その他の生理検査: 拡散能(DLCO)の測定は肺胞レベルでのガス交換能を見る検査で、鑑別に有用な所見をもたらすことがあります。COPD(肺気腫型)ではDLCOの低下がしばしば認められますが、喘息ではDLCOは正常~軽度上昇傾向であることが多いです 。これはCOPDでは肺胞構造破壊によるガス交換面積の減少が起こるのに対し、喘息では可逆的気道狭窄が中心で肺胞は保たれるためです。また安静時動脈血ガス分析では、COPD重症例では低酸素血症や高二酸化炭素血症(慢性呼吸不全)を呈しやすいのに対し、喘息では発作時を除きガス交換は保たれるのが通常です。慢性的なPaO₂低下やCO₂貯留があればCOPDを強く示唆します。
以上のように、問診・身体所見から始まりスパイロメトリーによる気流閉塞の確認と可逆性試験、さらに画像検査や炎症マーカー測定を組み合わせて総合的に評価することで、喘息かCOPDか、あるいは両者のオーバーラップかを判断します 。鑑別に迷う場合は呼吸器専門医に紹介し、詳細な呼吸機能検査(フローボリューム曲線解析、気道抵抗測定など)やCT検査を行って確定診断をつけることが推奨されています 。
重症度分類の指標(Severity分類)
喘息の重症度分類: 喘息では症状頻度や夜間症状、肺機能などに基づき重症度を軽症間欠型~重症持続型の4段階に分類します(日本の喘息予防・管理ガイドライン2018【JGL】やGINAガイドラインに準拠) 。具体的には、未治療の状態で以下のような基準があります :
- ステップ1(軽症間欠型): 症状が週1回未満、夜間症状は月2回未満 。日常生活への支障もない。
- ステップ2(軽症持続型): 症状は週1回以上だが毎日ではない。夜間症状は月2回以上。軽度の活動制限がみられる 。
- ステップ3(中等症持続型): 毎日症状がある。夜間症状も週1回以上で、日常生活に支障を来す 。
- ステップ4(重症持続型): 最大限の治療下でも症状が持続し、夜間症状で睡眠が妨げられるなどコントロール困難な状態 。
重症度が上がるほど高用量のICSや追加薬が必要となり、治療ステップが増えていきます 。また、喘息では上記の「治療前の重症度」とは別に、治療中のコントロール状態(良好・不十分・不良)を評価する指標も重要です 。例えば「日中・夜間症状が週に2回以上ある」「β₂刺激薬の救急使用が週2回以上ある」「肺機能が予測値の80%未満」といった項目でコントロールの良否を判定します 。重症度が高い患者ほど未治療での症状頻度や肺機能低下が顕著ですが、適切な治療によりコントロール良好な状態に維持することが可能です。
COPDの重症度分類: COPDでは病態の不可逆性があるため、重症度は主に**呼吸機能の指標(1秒量の予測値%)**に基づいて評価します。GOLDガイドラインの分類(病期分類)は以下の4段階です 。
- ステージI(軽度): FEV₁が予測値の80%以上 (※FEV₁/FVC<70%が前提条件)。
- ステージII(中等度): FEV₁が50〜80% 。
- ステージIII(重度): FEV₁が30〜50% 。
- ステージIV(最重度): FEV₁が30%未満 。慢性呼吸不全に至りやすい。
さらに近年のGOLD戦略では、肺機能だけでなく症状の程度(mMRC息切れスケールやCATスコアなど)と増悪頻度を組み合わせて患者をA,B,C,Dの4群に分類することが推奨されています 。例えばGroup Aは「症状も少なく(mMRC 0–1/CAT<10)、過去1年の増悪も0〜1回」といった軽症群、Group Dは「症状が強く(mMRC≥2/CAT≥10)、増悪を頻回に繰り返している(年2回以上あるいは入院歴あり)」重症群、という具合です 。このABC/D分類は治療方針の決定に用いられ、症状が強い群では積極的な薬物療法やリハビリを行い、増悪リスクが高い群では予防策(ワクチンやICS併用等)を講じます。
治療反応性・治療戦略の相違
吸入ステロイド(ICS)に対する反応性: 喘息とCOPDの最大の治療上の違いは、ステロイド治療に対する反応性です。喘息では気道の好酸球性炎症が病態の中心であるため、ICSによって炎症を鎮静化させると症状改善・肺機能改善が得られ、増悪も劇的に減少します。実際、喘息治療の基本はICSの定期吸入であり、軽症持続以上では長時間作用型β₂刺激薬(LABA)との併用療法が標準です 。適切なICS治療により多くの喘息患者で症状をコントロール可能で、長期的にも気道リモデリングの抑制や生命予後の改善につながります。
一方、COPDでは炎症のステロイド抵抗性が高く、ICS単独で肺機能低下の進行を止めたり寿命を延ばす効果は限定的です 。ICSを使用してもFEV₁の自然低下率を根本的に変化させることはできず、症状緩和や一時的な肺機能の改善が得られる“部分的反応”に留まります 。それでも、再燃を繰り返す中〜重症COPD患者ではICS併用が増悪頻度を減少させQOLを改善するエビデンスがあり、特に血中好酸球数が高い患者ではICSの有益性が高いとされています 。実際、GOLDの治療指針でも頻回増悪型(グループCやD)やACOを示唆する好酸球高値例ではICS/LABA併用療法が推奨されます 。ただしCOPDにおけるICS長期使用は肺炎リスクの増大や骨粗鬆症の懸念もあるため、副作用と利益を天秤にかけた慎重な適応判断が必要です 。総じて、喘息ではICSが治療の柱であるのに対し、COPDではICSは一部症例の補助療法という位置づけであり、治療反応性にも大きな差があります。
気管支拡張薬に対する反応性: 両疾患とも気管支拡張薬(β₂刺激薬や抗コリン薬)の吸入で一時的に気道平滑筋のトーンが改善し、呼吸が楽になります。しかし喘息では可逆性が高いため短時間作用型β₂刺激薬(SABA)の頓用で劇的に症状が軽減し、「発作治療薬」として有効です。COPDでもSABAである程度息切れは軽減しますが、すぐに元の閉塞状態に戻ってしまうため長時間作用型の薬剤を維持療法として使う必要があります。COPDの治療の基本は長時間作用型抗コリン薬(LAMA)やLABAによる定期吸入で、これにより肺活量の改善や運動耐容能の向上を図ります 。喘息では発作予防にLABAも用いますがICS併用が前提であり、LABA単独では炎症を抑えられないため根本治療になりません。一方COPDでは炎症抑制よりも気道拡張による症状緩和が主目的となるため、LABAやLAMA単独療法が有効です 。このように、喘息は抗炎症治療中心、COPDは気管支拡張中心という治療戦略の違いが、薬物反応性の差として表れています。なお、近年では喘息重症例にLAMAを追加した**三剤併用(ICS/LABA/LAMA)**も行われ、COPDでもICS追加がされるなど、両疾患の治療が接近しつつあります 。ただし、喘息患者からステロイドを安易に中止すると命に関わる発作を招く恐れがある一方、COPD患者にステロイドを漫然と使うと副作用が勝る可能性がある点には留意が必要です。
その他の治療反応性の差: 喘息では抗ロイコトリエン薬や生物学的製剤(抗IgE抗体、抗IL-5抗体など)が有効な場合がありますが、COPDではこれらの分子標的治療の効果は限定的です(ACO例を除く)。また長期酸素療法(HOT)はCOPD重症例では生命予後を改善しますが、喘息では慢性低酸素血症をきたすことが少ないため適応になるケースはまれです。リハビリテーションに関しては、COPDでは呼吸リハビリが運動耐容能・QOL改善に重要であるのに対し、喘息では発作予防のためのアレルゲン回避や自己管理教育がより重視されます。このように付随する治療介入にも両疾患で力点の置き方が異なります。
喘息-COPDオーバーラップ(ACOS/ACO)
喘息とCOPDのオーバーラップ(重複)症候群は、両疾患の特徴を併せ持つ病態で鑑別が難しいケースです。2015年にGOLD(COPDの国際ガイドライン)とGINA(喘息の国際ガイドライン)の合同報告でACOS(Asthma-COPD Overlap Syndrome)という概念が提唱されました 。しかし「症候群(Syndrome)」という呼称は適切でないとの議論から、現在では単にACO (Asthma and COPD Overlap) と呼ばれることが多くなっています 。日本においても2018年に日本呼吸器学会から『喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)診断と治療の手引き 2018』が公表され、診断基準が示されています 。
ACOの定義: 「慢性の気流閉塞を示し、喘息とCOPDそれぞれの特徴を併せ持つ病態」と定義されます 。簡潔に言えば、喫煙関連の肺機能障害(COPDの要素)とアレルギー素因による可逆性炎症(喘息の要素)が両方関与している患者像です。臨床的には、40歳以上で1秒率70%未満の気流閉塞を呈し 、かつ既往または現在の喘息所見(変動性の喘鳴発作や若年時からの喘息歴)やアレルギー・好酸球性炎症のマーカー(血中好酸球増多、FeNO高値、アトピー素因)を示す場合にACOを疑います 。日本の提唱する診断基準では、以下の3項目すべてを満たすことが必要とされています 。
- 基本項目: ①40歳以上であること、②気管支拡張薬後FEV₁/FVC<70%の持続性気流閉塞があること 。
- COPDの特徴: ①10 pack-years以上の喫煙歴(または同程度の受動喫煙・粉塵暴露)または、②胸部CTで肺気腫性変化の存在または、③%DLCOの低下――のいずれかを満たす 。
- 喘息の特徴: ①変動性または発作性の呼吸器症状がある、②40歳未満での喘息発症歴がある、③FeNO高値(>35 ppb)がある――のうち2項目以上、または上記①〜③の1項目に加えて④その他の特徴(通年性アレルギー性鼻炎の合併、気道可逆性の証明 、血中好酸球増多、IgE高値)のうち2項目以上を満たすこと 。
上記のようにやや複雑な基準ですが、要は「COPDの診断基準を満たす患者で、喘息の所見も併せ持つ場合」にACOと診断する形になります。疫学的には、既に喘息と診断された患者の約27%がACOに該当し、COPD患者の4〜50%(定義により幅あり)がACOの範疇に入ると報告されています 。ACO患者は両疾患単独の場合よりも症状が頻回かつ重度である傾向があり 、増悪もしやすいため予後不良とされています。したがって臨床ではACOを見逃さず、積極的に治療介入することが重要です。
ACOの治療方針: 喘息とCOPD双方の治療を並行して行うことが基本です 。具体的には、気道炎症を抑えるICSと気管支拡張薬(LABAおよびLAMA)の三剤併用療法が推奨されます 。日本の手引きでも、もともと喘息として治療されていた患者がACOと判明した場合は「ICSまたはICS/LABAを基軸にLAMAを追加」し、COPDとして治療されていた患者では「LAMAまたはLAMA/LABAを基軸にICSを追加」するよう勧告されています 。要するに最終的にはICS+LABA+LAMAの吸入3剤併用となるケースが多く、現在は1つの吸入デバイスに3成分が配合された製剤(いわゆるテリルジーなど)も使用可能です 。さらに、喫煙者であれば禁煙指導は必須であり、肺リハビリやワクチン接種(インフルエンザ・肺炎球菌)、併存症管理なども包括的に行います 。ACOでは特にICSを軽視しないことが重要で、喘息要素を適切にコントロールすることで増悪や死亡リスクを減らせます。一方でCOPD要素に対しても最適な気管支拡張療法を行い、呼吸リハビリ等で身体機能の維持向上を図ります。
以上、成人におけるCOPDと喘息の鑑別診断について、診断基準、検査所見、症状の特徴、重症度評価、治療反応性、および両者のオーバーラップであるACOについて解説しました。実臨床では両疾患の鑑別が難しい場合も少なくありませんが、各種ガイドラインの指標や検査結果を総合的に判断することで適切な診断と治療方針の決定に繋がります。特に「高齢・喫煙者の閉塞性障害」なのか「若年・アトピー素因の可逆的喘鳴」なのかを見極め、必要なら専門医と連携しながら、それぞれのガイドラインに沿った最善の治療を提供することが大切です。
参考文献: 国内外の最新ガイドライン および総説 を参照し作成しました。(各種ガイドライン: GOLD 2023, GINA 2023, 日本呼吸器学会COPDガイドライン2022第6版、日本アレルギー学会喘息予防・管理ガイドライン2018 他)
ACO(Asthma-COPD Overlap:喘息とCOPDのオーバーラップ)における吸入薬の選択は、両者の特徴を考慮したうえで、症状コントロールと増悪予防の両立が求められるため、単純な二剤併用(LABA/LAMAまたはLABA/ICS)だけでは不十分なことがあります。
🔍 推奨される吸入薬の組み合わせ
✅
基本的推奨:ICS/LABA/LAMAの三剤併用
- ICS(吸入ステロイド):喘息様の好酸球性炎症を抑える
- LABA(長時間作用型β₂刺激薬):気道平滑筋を拡張し症状緩和
- LAMA(長時間作用型抗コリン薬):さらなる気道拡張+分泌抑制
- → 三剤併用は喘息要素とCOPD要素の双方をカバーできるため、ACOにおいては最もバランスが良いとされています。
🧭 選択肢の比較
組み合わせ |
ACOに対する効果 |
注意点 |
LABA + LAMA |
気道拡張による息切れ改善 |
喘息成分が強いACOでは炎症制御が不十分 |
ICS + LABA |
炎症制御(喘息要素)に有効 |
COPD成分が強く、気道閉塞が残る可能性 |
ICS + LABA + LAMA |
喘息とCOPD両方にアプローチ可能 |
吸入指導・副作用管理(肺炎、声がれなど)が必要 |
🚨 なぜ三剤併用が望ましいのか?
- **ACOは単なる喘息でもCOPDでもなく、「両方の要素を持つ疾患」**です。
- 特にFeNO高値や血中好酸球高値、喘息の既往がある場合にはICSを含めるべきです。
- 一方で、LAMAの追加によりCOPD由来の症状(労作時息切れ、気道閉塞)に強くアプローチできます。
🩺 実臨床での判断基準(例)
- 既存喘息+喫煙歴あり → ACO:ICS/LABAをベースにLAMA追加
- COPD診断済+可逆性+好酸球↑ → ACO:LABA/LAMAにICS追加
- 気道可逆性が乏しいが炎症所見あり → まずICS/LABA+LAMA追加を検討
📌 まとめ
ACOでは、「ICS/LABA/LAMAの三剤併用」が第一選択肢となることが多く、
二剤併用(LABA/LAMAやICS/LABA)では一方の成分に対するカバーが不十分です。
患者個別の炎症指標、喫煙歴、画像所見、増悪歴を加味して選択することが重要です。
もし患者の詳細や使用中の吸入薬がわかれば、さらに具体的な提案ができますよ。お気軽にご相談ください!
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