ニンテダニブは皮膚潰瘍の治癒を遅らせる?
結論 ‑ ひと言で
ニンテダニブが主に阻害するのは VEGF・FGF・PDGF 系受容体であり、Epidermal Growth Factor(EGF/上皮成長因子)そのものを直接ブロックする薬ではありません。
ただし VEGF・FGF・PDGF は潰瘍や術創の血管新生・線維芽細胞増殖に欠かせないため、デジタル潰瘍や消化管潰瘍などの“治りが遅い”という副作用は報告されています。 (ncbi.nlm.nih.gov, publications.ersnet.org, pubs.acs.org)
1. 作用機序のおさらい(EGF ではなく VEGF/FGF/PDGF)
受容体 | ニンテダニブの阻害 | 創傷治癒での役割 |
---|---|---|
VEGFR1‑3 | 強力 | 血管新生・滲出 |
FGFR1‑3 | 強力 | 上皮・線維芽細胞増殖 |
PDGFRα/β | 強力 | 肉芽形成・平滑筋遊走 |
EGFR | ほぼ標的外(in‑vitro でわずかな間接抑制報告のみ) | 角化細胞増殖 |
in‑vitro で “FGF→EGFR のクロストーク” をニンテダニブが断つという報告はあるものの、臨床用量で EGFR を直接阻害するエビデンスは乏しい。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov, karger.com, journals.physiology.org)
2. 潰瘍・創傷治癒遅延のエビデンス
臨床状況 | 具体例 | 参考文献・報告 |
---|---|---|
デジタル潰瘍遅延 | SSc‑ILD 患者で増悪の懸念 | (academic.oup.com) |
消化管粘膜潰瘍 | 直腸ESD 後に 3 か月以上非治癒 | (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov, researchgate.net) |
頭頸部粘膜潰瘍 | 放射線治療後の非治癒 | (pmc.ncbi.nlm.nih.gov) |
手術創 | 心臓・整形外科手術で縫合不全例 | (jtcvstechniques.org, ec.europa.eu) |
添付文書でも「理論上、創傷治癒を阻害しうる」と明記。臨床試験では頻度が高くはなかったが、実臨床では case report がポツポツ。 (ec.europa.eu)
3. 実践ポイント ― “治りの遅さ”とどう付き合う?
手術・ESD・抜歯など
最低 2 週間前から休薬、創が安定するまで再開を遅らせるケースが多い。
デジタル(指先)潰瘍
SSc 患者では夏でも保温+血流改善薬の併用を検討。
栄養状態と併用薬
ステロイドや抗凝固薬は治癒をさらに遅らせ得るので総点検。
患者説明のコツ
「がん薬並みに傷が治らない」という誤解を防ぐため、“治癒が数日~数週間伸びる程度だが、まれに長引くことがあります” と具体的に伝える。
4. Q&A 形式でまとめ
Q | A |
---|---|
EGF を直接止める? | いいえ。メインターゲットは VEGF/FGF/PDGF。EGF 抑制は臨床上ほぼ意識不要。 (ncbi.nlm.nih.gov, publications.ersnet.org) |
潰瘍は必ず治りが遅れる? | 多くの患者では顕著ではないが、症例報告レベルで遅延が確認されているため注意が必要。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov) |
休薬すれば大丈夫? | 2 – 4 週間の休薬でリスクは大幅減。具体的なタイミングは創部や手技の侵襲度による。 |
Take‑home message
ニンテダニブは “EGF 抑制薬” ではなく “抗 VEGF/FGF/PDGF 薬”。
その angiogenesis ブロック効果がときに潰瘍や創傷の“のんびりモード”を引き起こす。適切な休薬と局所管理で多くは乗り切れるので、慌てず焦らず、患者さんと一緒に経過を見守りましょう。
(さあ、焦らずコツコツ治していきましょう。潰瘍の気持ちも「マイペースで行かせて!」と言っているのかもしれませんね 😄)
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