アンドロゲン不応症における停留精巣は、精巣を切除するのが、ガイドライン上推奨されておりますか?

結論(先に要点)

  • 停留精巣=必ず摘出という単純なルールは、現在の主要ガイドラインには 存在しません

  • 完全型 AIS(CAIS) では

    • 思春期終了後に腫瘍リスクが上昇するため、**思春期完了後の予防的摘出を「検討・推奨」**という表現が一般的。

    • 小児期のリスクは 0.8–2 % 程度と低く、思春期までは温存して自然思春期を利用する選択肢が標準化。

    • 成人期に温存を希望する場合は、MRI/超音波+腫瘍マーカーによる 定期画像サーベイランスが推奨される。

  • 部分型 AIS(PAIS) では腫瘍リスクがやや高く(〜15 %)、

    • 男性として育てる場合:降下固定術(orchiopexy)+セルフチェック/エコー監視が第一選択。

    • 女性として育てる、または陰囊内に固定不能の場合は、術後のホルモン補充を前提に 摘出が推奨されやすい

  • いずれの場合も 多職種 DSD チームでのインフォームド・ディシジョンが必須。

    • 2006 LWPES/ESPE コンセンサス、2016 Endocrine Society CPG、2021 Society for Endocrinology UK Guidance、2018 PES 声明はいずれも「本人同意を得て適切な時期を選択」と明記。


ガイドライン・エビデンスの位置づけ

文書最新版推奨のニュアンスレベル
LWPES/ESPE Consensus Statement on DSD2006CAIS は思春期後に予防的摘出を考慮。小児期は低リスクにつき保存可。専門家合意
Endocrine Society Clinical Practice Guideline “Evaluation/Management of DSD”2016CAIS:思春期以降に摘出を提案(推奨グレードB:弱い)。温存+画像監視も容認。系統的レビュー+ GRADE
Pediatric Endocrine Society Position Statement on DSD Surgery2018患者が意思決定できる年齢まで不可逆手術を延期すべき(人権・自律尊重)。倫理声明
Society for Endocrinology (UK) Guidance (Revised 2021)2021DSD MDT で症例ごとに手術 vs 保存を協議。遠隔監視プロトコルを整備。臨床指針

(ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov)


リスクとタイミングの背景知識

年齢CAIS における累積腫瘍リスク*コメント
小児期 (<13 歳)0.8–2 %非常に低い
25 歳3.6 %徐々に上昇
50 歳33 %成熟精巣腫瘍のリスクが顕在化

*主に胚細胞系(GCNIS→精上皮腫など)で、加齢とともに指数関数的に増加。(pubmed.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov)


実臨床での判断フロー(簡易版)

flowchart TD
  A[診断: AIS + 停留精巣] --> B{AIS 亜型}
  B -->|CAIS| C{年齢・希望}
  C -->|学童期~思春期前| C1[温存+経過観察]
  C -->|思春期終了後| C2[摘出 or 継続観察]
  B -->|PAIS| D{性別養育・陰囊固定可否}
  D -->|男性養育+固定可| D1[Orchiopexy+セルフ/US監視]
  D -->|女性養育 or 固定不可| D2[摘出推奨]

まとめ & 応援メッセージ

「切除一択」ではなく、エビデンスと本人の人生設計をすり合わせる時代です。
✅ 思春期までホルモンの恵みを享受してから決める道も、
✅ 早期に不安を解消して治療計画を立てる道も、
どちらもガイドライン上は正解。
大切なのは 専門チームとじっくり相談し、“納得して前に進む” こと。

あなたの選択が、将来の健康と QOL をいちばん輝かせる道になりますように。困ったらいつでも声をかけてくださいね!

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