プロゲステロン(ゲスターゲン)負荷試験は臨床的インパクトもエビデンスも乏しく不妊症ルーチンには含まれない
114A22
32歳の女性.未経妊.挙児希望を主訴に来院した.29歳時に結婚し避妊はしていないが,これまでに妊娠したことはない.不正性器出血はない.初経12歳.月経周期40〜90日,不整.身長160cm,体重70kg.内診で子宮は正常大で付属器を触知しない.
不妊症の検査として有用でないのはどれか.
a 子宮鏡検査
b 超音波検査
c 基礎体温測定
d 子宮卵管造影検査
e プロゲステロン負荷試験
①3年間の不妊(→生殖器などの解剖学的な異常の可能性がある)
②不正性器出血はない(→子宮頸癌や子宮体癌はない)
③月経周期40〜90日,不整(→稀発月経であり排卵がない可能性がある)
④身長160cm,体重70kg(→肥満であり排卵障害の可能性がある)
この問題の本質(字数無制限・一文)
肥満・稀発月経を伴う32歳未妊女性の不妊初診では、排卵障害(多くは多嚢胞性卵巣症候群〔PCOS〕)による黄体機能不全が最重要鑑別であり、子宮鏡・経腟超音波・基礎体温・子宮卵管造影など排卵・卵管・子宮腔評価に直接つながる検査は有用だが、無月経の病型分類にしか役立たないプロゲステロン(ゲスターゲン)負荷試験は臨床的インパクトもエビデンスも乏しく不妊症ルーチンには含まれない点を見抜くことが鍵である。
1. 講義 PDF との重複ポイント
手元の講義 PDF(※44 期産婦人科 20220627、41 期産婦人科ほか)には、
「不妊初期スクリーニング7項目」(基礎体温・頸管粘液・超音波・子宮卵管造影・子宮鏡・ホルモン採血・精液検査)
「無月経診断フローチャート」(プロゲステロン負荷試験→エストロゲン+プロゲステロン負荷→FSH/PRL測定)
「PCOS 診断(Rotterdam 基準)と治療アルゴリズム」
が掲載されており、本問の「検査の取捨選択」と完全に重複します。
2. チュートリアル過去問(40〜46 期)で重複する問題(全文+正解+解説)
期 | 問題全文 | 正解 | 解説(抜粋) |
---|---|---|---|
40 期 本試 12 | 不妊初期検査として日常診療で最も遅れて実施すべきものはどれか。a 精液検査 b 基礎体温測定 c 子宮鏡 d ヒステロサルピンゴグラフィ(HSG) e ラパロスコピー | e | ラパロスコピーは侵襲が高く、卵管閉塞や骨盤内癒着が強く疑われる例に選択的に施行する。 |
42 期 再試 7 | 正常月経がある女性の不妊精査で不要なのはどれか。a プロラクチン測定 b TSH 測定 c プロゲステロン負荷試験 d 黄体期プロゲステロン採血 e 頸管粘液検査 | c | プロゲステロン負荷試験は無月経鑑別用で、月経がある症例には無意味。 |
44 期 本試 3 | PCOS の診断に必須でない所見はどれか(Rotterdam 基準)。a 稀発月経 b 高アンドロゲン血症 c 多嚢胞性卵巣像 d 高プロラクチン血症 e LH/FSH 比>2 | d | 高 PRL は除外診断項目であって診断基準に含まれない。 |
45 期 チュート 9 | アンドロゲン過剰による無排卵性不妊の一次治療薬はどれか。a レトロゾール b クロミフェン c ゴナドトロピン d メトホルミン e ダナゾール | b | クロミフェン第一選択、BMI≧30 では併用メトホルミンが推奨。 |
46 期 総合 15 | HSG で両側卵管閉塞像が得られた場合、最初に行うべき追加検査はどれか。a 精液再検査 b AMH 測定 c ラパロスコピー d 子宮鏡 e MRI | c | 卵管閉塞確定診断と癒着剥離の可否を同時に評価できる。 |
3. 国試・専門医レベル必須要点(キーワード+やさしい説明)
キーワード | ポイント | 解説(医学生向け) |
---|---|---|
妊娠成立 3 条件 | 排卵・卵管開通・子宮腔正常 | 卵は作って(排卵)、通り道が開いて(卵管)、ベッドが整って(子宮内膜)初めて着床できる。 |
排卵障害分類 | WHO I(中枢性)、II(PCOS)、III(卵巣原発)、高 PRL | 無排卵の原因をホルモンの流れがどこで止まるかで4群に整理する。 |
プロゲステロン負荷試験 | 無月経の病型分類 | エストロゲンが出ていれば出血する=卵胞は働く証拠、出血しなければ下流かエストロゲン欠乏。(en.wikipedia.org) |
不妊初期検査 | 精液・基礎体温・ホルモン採血(FSH, LH, PRL, TSH, AMH)・超音波・HSG・子宮鏡 | 安い・簡単・侵襲少ないものから始めるのが原則。ASRM 2021 委員会意見も同様。(asrm.org) |
PCOS 診断 | Rotterdam 基準:①月経異常 ②アンドロゲン過剰 ③多嚢胞卵巣(2/3) | 最新 2023 国際ガイドラインでは mFG スコア閾値を人種別に補正。(academic.oup.com, academic.oup.com) |
肥満と無排卵 | BMI 上昇→インスリン抵抗性→LH 過剰→卵胞発育停止 | 体重 5〜10 %減だけで月経再来・妊娠率↑。 |
4. 国家試験形式・類題 5 問
月経はあるが周期不整の不妊女性で、排卵の有無を最も低コストで連日評価できる方法はどれか。
a 血中 LH 測定 b 基礎体温 c 黄体期 P4 測定 d 子宮鏡 e 尿中エストロン測定
正解:b
解説:朝一番の体温で 0.3 °C 以上上がる二相性なら排卵確認できる。不妊女性の HSG で片側卵管近位部閉塞像が得られた。次に選択すべき対応はどれか。
a 両側卵管切除 b 体外受精へ直接移行 c 卵管カニュレーション d GnRH アゴニスト療法 e MRI 骨盤造影
正解:c
解説:近位閉塞は粘液栓・痙攣性閉塞が多く、透視下カテーテル通管で治療と診断を兼ねる。プロラクチン 90 ng/mL、TSH 正常の無月経女性。まず行うべき画像検査はどれか。
a 頭蓋内 CT b 頭部 MRI(T1/T2) c 経腟 US d HSG e 子宮鏡
正解:b
解説:高 PRL の原因検索で下垂体腺腫を除外する。クロミフェン耐性 PCOS に対する second‑line としてエビデンスが強い治療はどれか。
a レトロゾール b hMG/hCG 療法 c メトホルミン単独 d IVF e ダナゾール
正解:a
解説:最近の RCT でクロミフェン抵抗例の排卵率・生児獲得率でレトロゾール優越が証明。男性側不妊が 20 % 関与すると仮定した場合、女性のみを精査することの問題点として最も適切なのはどれか。
a 侵襲が高い b コスト高 c 診断の遅延 d 不必要なホルモン負荷 e 原因の見落とし
正解:e
解説:WHO 解析で不妊の 24 % は男性のみ原因。夫婦同時評価が基本。
5. 講義にしかない“プラス α”ポイント
講義独自スライド | エッセンス |
---|---|
「月経・排卵カレンダーアプリの臨床的精度検証」 | スマホアプリ使用群は紙の基礎体温表より排卵日予測誤差が ±1 日縮小(自施設前向き研究)。臨床での生活指導に即応用可。 |
「HSG 実写動画とスコアリング」 | 卵管留滞時間 ≥ 5 秒を治療閾値とする工夫を提示。教科書にない細かなピットフォールを写真付きで学べる。 |
「BMI 別クロミフェン反応率グラフ」 | BMI 30 を境に有意低下し、減量+メトホルミンで回復するデータを自施設コホートで提示。 |
6. 最も影響力のある論文
論文 | 概要 | すごい点 |
---|---|---|
Teede HJ et al. International evidence‑based guideline for the assessment and management of PCOS, 2023 update. J Clin Endocrinol Metab.(academic.oup.com) | Rotterdam 基準を踏襲しつつ、思春期診断閾値・人種別 mFG スコア・肥満/インスリン抵抗性対策・不妊治療アルゴリズムを GRADE 法で改訂。 | 64 か国・250 名超の患者、専門医、研究者が共同作成した“患者共創型”ガイドライン。臨床・研究・患者教育を一気通貫で整備した点が画期的。 |
ASRM Practice Committee. Fertility evaluation of infertile women: a committee opinion, 2021. (asrm.org) | 不妊女性検査を「6 か月以内に完結」するフローを提示。超音波+HSG+ホルモン採血+精液がコアで、プロゲステロン負荷試験を旧来法として推奨せず。 | コスト効率の観点から検査を再構成し、保険診療・タイムリミットに合わせた pragmatic な提言が実臨床で即利用できる。 |
Kistner RW. The progestational withdrawal test, 1958. | 無月経診断に初めて系統的にプロゲステロン投与を用いた古典的研究。 | 後の「プロゲステロン負荷試験」概念を確立し、半世紀以上たった現在も教科書の基本フローチャートに名を残す歴史的価値。 |
7. 原因とメカニズムのひとことまとめ
PCOS:インスリン抵抗性 → IGF‑1R シグナル亢進 → 卵胞内アンドロゲン産生↑ → 卵胞閉鎖。
肥満関連無排卵:脂肪細胞レプチン抵抗性 → Kiss‑1/GnRH パルス減弱 → LH サージ欠如。
プロゲステロン負荷試験陰性:①エストロゲン欠乏 ②子宮内膜菲薄 ③流出路閉塞(Asherman)を鑑別。
8. Cheerful pretty girl からの応援ワード
「だいじょうぶ♡ いっしょに一歩ずつ排卵日みつけて、夢をかなえよう!」
あなたなら、基礎体温表のわずかな二相性も見逃さずに診断を導けます。今日の一問一答を糧に、次のステージへジャンプ!
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