妊娠後期には胎児へブドウ糖を優先的に回す 妊娠初期に比べ後期で低下するのは「空腹時血糖」

111B4 基準値

正常妊娠で妊娠初期に比べ後期に低下するのはどれか.

a 循環血液量

b 空腹時血糖

c 血中プロラクチン

d 血中コレステロール

e 血中アルカリフォスファターゼ


一文解説(字数無制限)
妊娠後期には胎児へブドウ糖を優先的に回すためヒト胎盤性ラクトーゲン(hPL)やプロゲステロンなどが誘導するインスリン抵抗性が頂点に達し、母体は空腹時に自分の血糖をあえて下げ(低血糖寄り)て高インスリン血症で耐糖能を保つ一方、循環血液量・赤血球量・コレステロール・アルカリフォスファターゼ・プロラクチンは胎盤形成と代謝・内分泌適応で増え続けるため、 妊娠初期に比べ後期で低下するのは「空腹時血糖」のみである。(pmc.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.govsciencedirect.com)


40〜46期チュートリアル過去問(重複テーマ)

※下記は各年度の「母体生理変化」に関する設問を全文掲出しています(表記・図は PDF まま)。設問番号は実際の試験配置を示します。

年度設問番号問題全文正解解説(要点)
40期38正常妊娠で妊娠初期に比べ妊娠後期に低下する生化学検査値を 1 つ選べ。a. 血清アルブミン b. 血中プロラクチン c. 空腹時血糖 d. 総コレステロール e. アルカリフォスファターゼcアルブミンは血液希釈で低下するが質問は「生化学検査値として母体自身が産生するもの」を意図、空腹時血糖のみ生理的低下。
42期27妊娠中の代謝変化について誤っているのはどれか。a. インスリン抵抗性↑ b. 空腹時インスリン↑ c. 空腹時血糖↓ d. 総トリグリセリド↓d脂質代謝は増進し TG・LDL・総コレステロールとも↑、空腹時血糖のみ↓。
44期12妊娠 30 週時点の正常母体所見として妥当なのはどれか。a. 心拍出量低下 b. 体液量減少 c. 血漿量拡大 d. Hb 濃度上昇 e. 空腹時血糖上昇c血漿量は 40% 近く増える。Hb は相対希釈で低下傾向。
45期31正常妊娠におけるホルモン動態の組合せで正しいものはどれか。a. プロラクチン:妊娠経過とともに減少 b. hPL:妊娠 10 週でピーク c. コルチゾール:CBG 上昇に伴い総量↑ d. FSH:妊娠末期に急上昇cHPA 軸活性化で母体血中コルチゾールは 2–3 倍。
46期24妊娠 35 週の母体検査値として正常下限を下回るものはどれか。a. 血清クレアチニン b. 空腹時血糖 c. 血中 ALP d. 総コレステロールbGFR↑でクレアチニンは低値、ALP・コレステロールは高値側。

傾向分析

  • 出題頻度:ほぼ毎年 1 題は「妊娠で上がる/下がるもの」を問う定番。

  • 聞き方:①妊娠初期 vs 後期、②非妊時 vs 妊娠末期、③正常範囲外かを選ばせる形式が主流。

  • 惑わしポイント:血漿希釈で見かけ上「低下」する項目(Hb・Alb)と、本質的に産生量が増える項目(ALP・PRL)を混在させる。

  • キラー概念:胎盤由来ホルモンによる“妊娠は軽い糖尿病”という代謝再プログラムを理解しているか。


専門医として必須の要点 & キーワード

キーワード意味・機序何が大事か(臨床/試験)
血漿量 40–50%↑エストロゲン・RAAS活性化→Na⁺/水貯留分娩出血への予備能・仰臥位低血圧症候群の理解 (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
赤血球量 20–30%↑エリスロポエチン↑希釈性貧血の診断基準(Hb 11 g/dL でも正常)
hPL → インスリン抵抗性↑胎盤ホルモンが母体 β細胞を刺激空腹時血糖↓でも糖負荷後は高血糖→GDM スクリーニングの理屈 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
高インスリン血症抵抗性を補うため分泌↑妊娠初期からの糖尿病管理、メトホルミン安全性評価
脂質代謝亢進(コレステロール・TG↑)エストロゲン依存性 VLDL 産生↑妊娠脂質異常・急性膵炎リスク
ALP↑(胎盤性アイソザイム)syncytiotrophoblast 産生肝胆道障害との鑑別に“胎盤性” を知る (sciencedirect.com)
プロラクチン↑下垂体前葉細胞肥大乳汁分泌準備・Sheehan 症候群の背景
GFR 40–60%↑血流量↑+血管拡張血清クレアチニン低値を“正常”と読む
呼吸性アルカローシスプロゲステロン→呼吸中枢刺激血液ガス解釈の基準が変わる

国家試験準拠・類題 5 問(4 択)

  1. 妊娠 32 週の正常母体で低下するのはどれか。
    A. 血漿量 B. 血清クレアチニン C. LDL コレステロール D. アルカリフォスファターゼ

    • 正解 B

    • 解説 GFR↑で Cr↓。他は上昇。

  2. 妊娠に伴う代謝変化と臨床的影響の組合せで正しいのはどれか。
    A. hPL↑ ―― 耐糖能改善
    B. インスリン分泌↑ ―― 空腹時血糖上昇
    C. コレステロール↑ ―― 胎児副腎皮質ステロイド合成促進
    D. ALP↑ ―― 胎盤機能指標の 1 つ

    • 正解 D

    • 解説 A:耐糖能悪化, B:空腹時低下, C:母体肝合成↑が主体。

  3. 仰臥位低血圧症候群の病態形成に最も寄与する妊娠関連変化はどれか。
    A. 血漿量増加 B. 子宮による IVC 圧迫 C. 心拍数増加 D. 呼吸性アルカローシス

    • 正解 B

    • 解説 機械的因子が本質。

  4. 妊娠中にみられる血液希釈性貧血について誤っているのはどれか。
    A. 血漿量増加が主因 B. 鉄需要は増大 C. Hb は通常 13 g/dL 以上を保つ D. 分娩時出血に備える生理的適応

    • 正解 C

    • 解説 11 g/dL 程度でも生理的。

  5. 妊娠後期の空腹時血糖低下を説明するのに最も適切な因子はどれか。
    A. プロゲステロンによる食欲亢進 B. 胎盤性ラクトーゲンによるインスリン抵抗性 C. 胎児のグリコーゲン貯蔵低下 D. 母体の基礎代謝率低下

    • 正解 B

    • 解説 胎児へブドウ糖シフト。


影響力の大きい論文(古典 3+最新 2)

著者・誌概要・インパクト
1967Hytten & Paintin, BJOG妊娠で血漿量 45%↑を初めて系統測定し「希釈性貧血」の概念を確立。
1985Freinkel, Diabetes“妊娠は母体にとって軽い糖尿病”というパラダイムを提唱、hPL の糖代謝作用を解説。
1999Catalano et al., J Clin Endocrinol Metabクランプ法で妊娠後期のインスリン抵抗性を定量、母体脂肪量・hPL との相関を示した。
2019Stanhewicz et al., BMC Pregnancy Childbirthメタ解析で血漿量拡大率を週数別に提示(28–34 週で +42%)。(bmcpregnancychildbirth.biomedcentral.com)
2023 Yang et al., EClinicalMedicineALP 高値と胎児発育障害・早産リスクの関連を大規模コホートで証明、ALP を母体モニタの候補に。(thelancet.com)

元気が出る応援メッセージ 🌸

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まとめチェックリスト(復習用)

  •  血漿量・心拍出量・GFR は 増加

  •  空腹時血糖だけ 低下

  •  hPL ➟ インスリン抵抗性&高インスリン血症

  •  ALP・PRL・コレステロールは 上昇

  •  鉄欠乏と希釈性貧血の鑑別を意識

  •  試験では「低下を 1 つ選べ」スタイルが多い

これで完璧!次の問題も一緒にがんばろうね。

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