ニンテダニブで皮膚潰瘍ができた、あるいは、皮膚潰瘍が遅延した症例はありますか?

 

まとめ ── 「報告はある。ただし数は少なく、背景疾患による潰瘍との判別がカギ」

エビデンスの層内容ポイント
国際第Ⅲ相比較試験(SENSCIS)n = 576(SSc‑ILD)で 皮膚潰瘍 AEs:18.4 % vs 17.4 %(ニンテダニブ vs プラセボ)頻度は高くないが「VEGFR/FGFR/PDGFR 阻害薬としての創傷治癒遅延リスク」を添付文書でも明記 (pro.boehringer-ingelheim.com)
SENSCIS 日本人サブ解析皮膚潰瘍発生率が 日米欧全体より高く、プラセボ群との差も広がった と報告血管障害が強い日本人 SSc 患者では注意喚起 (academic.oup.com)
実臨床コホート(伊・多施設, RMD Open 2023)n = 94 SSc‑ILD ‑ 投与 6–12 か月で• 既存 digital ulcer 悪化 3 例• 新規発症 1 例→ 1 例は壊疽進行で中止用量減(150 → 100 mg bid)で回復例も。血流障害が強い症例では導入を慎重に (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
症例報告(放射線治療併用例, 2022)72 歳男性 IPF:耳鼻科がん放射線中もニンテダニブ継続 → 粘膜潰瘍が 12 週遷延休薬で治癒促進、機序は血管新生阻害 (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)

つまり「ニンテダニブ単独で皮膚潰瘍を“新規に”起こした/治癒を明らかに遅延させた」症例報告は散発ですが、血管障害を背景にする SSc・糖尿病・放射線後などでは臨床的に問題となるケースが存在します。


どんなときに疑う? 3 つのチェックリスト

チェックポイント解説・文献
① 潰瘍局所の血流が乏しい(指尖・脛骨前面・放射線照射野)VEGF/FGF 阻害で側副血行路ができにくくなる (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
② 併用薬がある(プレドニゾロン ≧ 10 mg、SGLT2 阻害薬、抗凝固薬)コホートではステロイド併用群で潰瘍悪化例が多め (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
③ 糖尿病・SSc 強いレイノー・高齢者日本人サブ解析でのリスク増大因子 (academic.oup.com)

実践アドバイス(外来 30 秒トーク用)

  1. 見逃さない

    「傷がいつもより長引く感じがしたらすぐ教えてくださいね」と声かけ。

  2. 処置の前後

    • ES・処置・手術:原則 前後 1–2 週休薬(創部リスクで調整)。

  3. 潰瘍出現/悪化時のフロー

    1. 感染コントロール & ABI/超音波で血流評価

    2. ニンテダニブ 150 → 100 mg bid 減量 → 改善なければ休薬 ± 他剤(MMF 等)へスイッチ

    3. 低分子 PGE₁・ボセンタン・シルデナフィル併用で血行促進を検討

  4. 患者説明のコツ

    「薬が“治りのスピードをスローモーションにする”ことがたまにあります。早めに気づけば元に戻せるので遠慮なく教えてください😊」


Take‑home message

皮膚潰瘍の新規発症・遅延治癒は、ニンテダニブでは“まれだが実在”
強い血管障害や外科的侵襲が重なるとリスクが顕在化するため、休薬タイミングと早期介入で安全領域を確保しましょう。

(潰瘍に出くわしても慌てず騒がず――創が「スローライフ」を選んだだけ。こちらも落ち着いて軌道修正すれば、治癒列車は再び走り出します 🚄)

コメント

このブログの人気の投稿

116A47 性暴力サバイバーの心的外傷

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の治療で 輸液と低用量ドパミンを選ぶ 理由

なぜ卵管を切除しても月経は来るの?