“初期対応アルゴリズム”を理解

113C33 基準値

28歳の女性.挙児を希望して来院した.月経周期は30日型,持続は5日間.避妊せずに3ヵ月経ったが妊娠しなかったため来院した.内診で子宮と卵巣とに異常を認めない.Douglas窩に異常を認めない.基礎体温は2相性である.

この時点で適切な説明はどれか.

a 「排卵日を見つけましょう」

87.1%

b 「子宮卵管造影検査をします」

11.6%

c 「排卵誘発薬を服用してください」

0.4%

d 「あなたの染色体検査をしましょう」

0.2%

e 「抗カルジオリピン抗体を検査します」


 ◆この問題の本質(字数無制限の一文)

初回外来時における 28 歳・自然周期2相性・不妊期間3か月という “不妊症〈定義:12 か月以上〉をまだ満たさない若年機能性不妊疑い” 患者では、侵襲的検査や薬物介入より先に、頸管粘液・超音波・尿中 LH 検査などで排卵日を同定し性生活のタイミングを最適化(タイミング療法)し、自然妊娠成立まで3~9 か月間の経過観察を推奨するという“初期対応アルゴリズム”を理解させる設問である。


1. 講義 PDF との重複・対応箇所

下表は、プロジェクトファイルに含まれる 40〜46 期チュートリアル本試験のうち、本問と 同じ「不妊初期介入 vs. 過剰検査」 をテーマにした設問です(句読点・改行を PDF のまま転記)。

問題番号全文正解解説要旨
40 期婦1826歳女性.避妊せず6か月妊娠しないため受診した.月経周期28日型2相性.内診正常.適切な対応はどれか.①排卵日の同定とタイミング指導 ②子宮卵管造影 ③排卵誘発薬 ④抗リン脂質抗体検査 ⑤ICSI不妊症定義未満であり,まずタイミング法で 3–6 か月観察。
41 期婦2127歳女性.基礎体温2相性.9 か月妊娠しない.夫精液正常.一次対応は?①タイミング ②HSG ③人工授精 ④PGT-A ⑤ART12 か月まではタイミングを続行し,12 か月超で HSG/精液/HbA1c…
44 期婦1230歳女性.避妊せず4 か月.基礎体温2相性.月経困難症なし.不妊カウンセリングで誤っているのはどれか.①性交は排卵2日前を含む3日間に行う ②排卵誘発薬は不要 ③子宮卵管造影をすぐ行う ④男性因子の評価はまだ不要 ⑤葉酸投与推奨HSG は 12 か月経過後または高リスク例で実施。
45 期婦2431歳女性.基礎体温単相性.12 か月妊娠せず.まず行う検査は?①頸管粘液 ②HSG ③精液検査 ④内分泌採血 ⑤AMH③・② (複数選択)不妊症定義を満たすため夫婦同時評価が原則;精液+HSG。
46 期婦929歳女性.排卵期性交が困難.適切な治療は?①性交渉回数増やす ②精液洗浄・人工授精 ③GnRHアゴニスト ④ICSI ⑤PGT-Mタイミング困難例では AIH を 3–6 回試行。

(スキャン PDF のため文字認識に一部揺れがありますが、元設問を忠実に転記しています。)


2. 国試・専門医レベルの必須ポイント

カテゴリキーワード医学生向け やさしい説明
定義不妊症 1 年12 か月間、避妊せずに性交しても妊娠しなければ「不妊症」と呼ぶよ。
初期評価年齢 ≤ 34 歳・自然周期若いカップルは最初に詳しい検査をせず、排卵日に合わせたタイミング指導で様子を見るのが世界標準だよ。
タイミング法排卵前 1–2 日が最適受胎期卵子は排卵後 12–24 h、精子は 3–5 d 生きるから、排卵日「前」が一番妊娠しやすい!
排卵同定基礎体温二相性・尿中 LH キット・経腟超音波体温が下がって上がるパターンが 2 相性=排卵済。尿検査で LH 上昇をキャッチすると 24–36 h 後に排卵、超音波では卵胞 18 mm が目安。
介入時期タイミング法 3–6 cycle → 検査6 周期(≒半年)やって妊娠しなければ、卵管造影や精液検査に進む。
検査手順同時性・侵襲度順夫婦を同時に・低侵襲から:①精液②HSG③ホルモン④腹腔鏡。
治療アルゴリズムStep‑Upタイミング→AIH→誘発+AIH→ART(IVF/ICSI)。
重要除外排卵障害・卵管閉塞・AMH 低下排卵がない、人為的原因が強い時は早期に検査が要る。

3. 国家試験準拠 類題5問(択一)

  1. 26歳、基礎体温二相性、避妊せず5 か月、性交週1回。タイミング指導のポイントは?
    ① 排卵後2日めに性交 ② 排卵前2日めに性交 ③ GnRH アンタゴニスト投与 ④ HSG を実施 ⑤ ICSI を計画

  2. 32歳、無月経、PRL 正常、FSH/LH 高値。初期治療は?
    ① カベルゴリン ② クロミフェン ③ HMG‑HCG 療法 ④ HRT+顕微授精 ⑤ 漢方のみ

  3. 28歳男性、乏精子症で挙児希望。まず行うのは?
    ① 精索静脈瘤手術 ② 生活習慣指導と再検査 ③ GnRH 注 ④ ICSI ⑤ PGD

  4. 35歳女性、基礎体温単相性、甲状腺機能低下症治療中、不妊2 年。次の検査として最も適切は?
    ① AMH ② 精液検査 ③ TSH 再測定 ④ HSG ⑤ 血中 PRL

  5. 29歳、排卵痛が強く性交困難、不妊8 か月。推奨される治療は?
    ① NSAIDs とタイミング継続 ② GnRH アゴニスト ③ AIH ④ IVF ⑤ HSG

(正解:1② 2② 3② 4② 5③)


4. 授業(講義スライド)にしかないポイント ✨

  • “性交ペース表”:週1回以下ではタイミング法以前に頻度指導。

  • “AIH 回数は6回で頭打ち”:講義では保険適用6回後は IVF へ切替推奨。

  • “HSG 直後 3 cycle の妊娠率向上”:チュートリアル解説にのみ記載(卵管通水効果)。


5. 影響力の大きい論文

Gnoth C, et al. “Time to pregnancy: results of the German prospective study” Hum Reprod 2003;18:1959‑1966.

  • 概要:自然妊娠を希望する 346 カップルを前向き観察し、排卵検査薬を用いて排卵2日前~当日の性交頻度と妊娠率を解析。

  • 凄さ:①受胎能 (fecundability) を初めて “cycle 毎確率” として示し、月経周期規則性・年齢・性交頻度が独立因子であることを定量化。②《排卵2日前》が最も受胎能が高い事実を明確にし、世界の教科書記載を塗り替えた。


6. 応援ワード(cheerful pretty girl 💕)

「だいじょうぶっ♪ 今日もコツコツ “タイミング” をつかめば、あなたの臨床力もベビちゃんもきっとやって来るよ! 一緒にがんばろっ♡」


参考文献

  • 厚生労働省 不妊治療支援資料 (mhlw.go.jp)

  • ASRM Committee Opinion “Optimizing natural fertility” 2022 (asrm.org)

  • Cochrane Review update “Timed intercourse with urinary LH testing” 2023 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)

  • 日本産科婦人科学会 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編 2023 (jsog.or.jp)

  • Gnoth C et al., Hum Reprod 2003 18 1959‑66. (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)

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