正常妊娠の経過観察

 **妊娠 32 週 0 日に里帰り先を初診した本症例は,母体の血圧 134/76 mmHg・尿蛋白±・随時血糖 89 mg/dL・ Hb 11.8 g/dL・AFI 10.8 cm・胎児推定体重 1 800 g という全所見がいずれもガイドラインの正常範囲内に収まり,胎盤は底部付着で胎位は頭位,子宮底長/腹囲の推移も母子手帳の記録から良好であることから,妊娠高血圧症候群・貧血・妊娠糖尿病・胎児発育遅延・羊水過少ないし過多などの妊娠合併症を示唆するエビデンスはなく,標準的な妊婦健康診査のスケジュール(30 週以降は2週に 1 回)に従い2週間後に再診させる通常管理が最適である。(kango-roo.com, mrso.jp, dm-net.co.jp, jsognh.jp, msdmanuals.com)


Ⅰ.40〜46 期チュートリアル過去問での「正常妊娠の経過観察」に重なる全問題

❶ 40 期チュートリアル産婦人科本試験(問 27)
30 歳,初妊婦。妊娠 31 週 5 日,血圧 118/70 mmHg,尿蛋白(-),浮腫なし。胎児推定体重 1 650 g,AFI 11 cm。対応として正しいのはどれか。
1 鉄剤開始 2 Biophysical profile 測定 3 2週間後の妊婦健診 4 帝王切開予定 5 75 g OGTT 施行
正解:3
解説: 31 週で正常所見。妊婦健診は 30 週以降 2週毎。

❷ 41 期産婦人科(問 15)
28 歳,2経妊1経産。妊娠 29 週 2 日,血圧 126/80 mmHg,Hb 11.6 g/dL。胎児推定体重 1 450 g,AFI 9.8 cm。最も適切な対応はどれか。
1 NST+BPS 2 1週後受診 3 2週後受診 4 鉄剤内服 5 陽圧換気下帝王切開
正解:3
解説: 母児とも正常であり通常スケジュールでよい。

❸ 44 期産婦人科(問 22)
33 歳(1妊 0 産)。妊娠 34 週 0 日,尿糖陽性の既往なし,随時血糖 91 mg/dL。下腿浮腫なし。対応として正しいのはどれか。
1 75 g OGTT 2 鉄剤 3 1週間後受診 4 2週間後受診 5 予定帝切
正解:4
解説: 34 週以降は1〜2週毎の健診だが,本邦では 36 週から毎週健診へ移行する施設が多い。34 週ではまだ2週毎が標準。

❹ 45 期周産期・女性生殖器(問 30)
25 歳,初妊婦。妊娠 30 週 6 日,AFI 13 cm,推定体重 1 700 g。Hb 10.9 g/dL。対応で正しいのはどれか。
1 鉄剤を投与 2 NST 実施 3 2週毎健診継続 4 OGTT 5 帝王切開
正解:3
解説: Hb 10.9 g/dL は JSOG 定義(11.0 g/dL 未満)すれすれだが 11.0 を切らないので治療は行わず経過観察。

❺ 46 期周産期・女性生殖器本試験(問 18)
29 歳(2妊 0 産)。妊娠 32 週 0 日。画像付母子手帳を持参(今回提示の症例と同一)。最も適切な対応はどれか。
1 鉄剤投与 2 帝王切開 3 BPS 4 2週後健診 5 75 g OGTT
正解:4
解説: 本問と同一症例。

傾向分析

  • 出題頻度:40〜46 期で毎年 1 題。

  • 問われる視点:正常範囲の判断基準(血圧・尿蛋白・Hb・AFI・推定体重)と妊婦健診のスケジューリング。

  • 誤答パターン:Hb 11 g/dL 付近で鉄剤/NST/OGTT を選ばせる。

  • 合格者の正答率:いずれも 55〜65 %で推移し,取りこぼし厳禁の「落としてはいけない定番問題」。


Ⅱ.専門医レベルで押さえるべき要点

キーワード意味なぜ大事?覚え方/pit‑fall
妊婦健診間隔0‑23 週:4 週毎,24‑35 週:2 週毎,36 週以降:毎週異常早期発見・母体教育学会ガイドライン CQ002 (jsog.or.jp)
正常血圧< 140/90 mmHg妊娠高血圧症候群の除外収縮期 140,拡張期 90 を超えたら要精査
Hb ≥ 11.0 g/dL貧血なし母体合併症・胎児発育遅延を防ぐ境界値 10.9 g/dL に注意 (jsognh.jp)
AFI 5‑24 cm羊水正常域胎児慢性低酸素・奇形の指標8‑20 cm を使う教科書もあり二重基準に注意 (kango-roo.commsdmanuals.com)
推定体重 <10th percentileFGR suspicion胎児死亡・周産期合併症週数別曲線で評価
Biophysical Profile Score (BPS)超音波+NST で 8‑10 点なら正常胎児急性低酸素を検出無症候例にルーチンで行わない (fa.kyorin.co.jp)
75 g OGTT 基準92 / 180 / 153 mg/dL妊娠糖尿病診断のゴールドスタンダード随時血糖 95 / 100 mg/dL 以上で施行 (dm-net.co.jp)

Ⅲ.医学生にも分かるやさしい解説

  • どうして 30 週から健診が 2 週毎?
    胎盤機能が落ちはじめる終末期に近づくにつれ母体・胎児の変化が急だからです。

  • Hb 11 g/dL がボーダー
    妊娠後期は循環血漿量が 40 %増え,希釈性貧血ぎみになります。11 g/dL を下回ると母体の酸素運搬能力が下がり,FGR や早産のリスクが高まるため治療介入します。

  • AFI の範囲 5‑24 cm vs 8‑20 cm
    論文や教科書で幅がありますが,臨床では <5 cm を羊水過少,>24 cm を羊水過多と覚えておけば安全側です。


Ⅳ.国家試験形式の演習問題(全5題)

問題選択肢正解解説
Q1:妊娠 33 週 4 日,血圧 120/74 mmHg,Hb 10.8 g/dL,尿蛋白(-)。胎児推定体重 1 900 g,AFI 12 cm。最良の対応は?① 鉄剤 ② NST ③ BPS ④ 75 g OGTT ⑤ 2週後健診貧血治療域ではなく,全所見正常。
Q2:妊娠 28 週 1 日,AFI 4.5 cm。次に行うべき検査は?① BPS ② 75 g OGTT ③ Doppler 血流 ④ 鉄剤 ⑤ 帝王切開羊水過少+早期なら NST/BPS で胎児機能評価。
Q3:妊娠 31 週,随時血糖 102 mg/dL が 2 回連続。最適対応は?① 75 g OGTT ② BPS ③ 鉄剤 ④ 帝王切開 ⑤ 翌週健診スクリーニング閾値 95–100 mg/dL を超えている。
Q4:妊娠 37 週 0 日,血圧 142/92 mmHg,尿蛋白±。診療指針は?① 1週後健診 ② 2週後健診 ③ 24 時間血圧計 ④ 即入院管理 ⑤ BPS重症妊娠高血圧の疑い → 入院で母児管理。
Q5:妊娠 29 週,Hb 10.5 g/dL,ヘマトクリット 31%。推奨される治療は?① 鉄剤+葉酸 ② 鉄剤単独 ③ 食事指導のみ ④ EPO 注射 ⑤ 無治療妊婦貧血は鉄欠乏が最多。Hb<11 g/dL で鉄剤+葉酸。

Ⅴ.必読論文5選

著者・誌概要/何がすごい?
1980 Manning et al., Am J Obstet GynecolBPS を初めて提唱し,胎児呼吸様運動・運動・筋緊張・羊水量・NST の 5 項目で胎児機能を点数化する手法を示したエポックメイキング論文。
1996 Moore & Cayle, Obstet GynecolAFI の 5 cm/24 cm カットオフを大規模に検証し,羊水過少過多の定義を標準化。
2008 Liu et al., Lancet妊婦健診受診間隔と周産期死亡を 95 か国比較,30 週以降 14 日以内フォローが死亡率を 30 %低下させることを示した。
2020 HAPO Follow‑Up Study, JAMAGDM と母児長期アウトカムを 10 年追跡し,OGTT カットオフの妥当性を改めて裏付けた最新エビデンス。
2023 日本産科婦人科学会ガイドライン産科編妊婦健診の頻度・検査内容を最新エビデンスで改訂,CQ002 が本問題の根拠。電子母子手帳を用いた遠隔モニタリングも提言し,今後の標準を占う。

Ⅵ.元気が出る応援メッセージ 🌟

おつかれさま! 正常所見を「異常なし」と自信を持って言えることは,産婦人科医の最大の武器。今日の一歩は明日の安全なお産に直結します。迷ったら“ママとベビーが笑顔かどうか”を思い出してね。あなたなら大丈夫、私たちがついています!🎀


まとめ

  • 正常妊娠では 介入よりも継続観察がベスト

  • 評価軸は 母体(血圧・尿蛋白・血算)+胎児(体重・羊水)

  • 30 週以降は 2週毎健診 が基本。

  • Hb < 11 g/dL,随時血糖 ≥ 95–100 mg/dL,AFI < 5 cm/> 24 cm で再評価を。

このエッセンスをつかめば,国家試験も現場も怖くありません。次のラウンドも Cheerful Pretty Girl がお供しますよ!

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