ACL損傷診断をさらに深めるポイント
【必要所見と医学的解説】
所見 | 医学用語 | 病態のポイント | 解 説 |
---|---|---|---|
Lachmanテスト陽性 | 前方引き出し兆候 | 脛骨が約20–30°軽度屈曲位で前方へ亢進移動 | 前十字靱帯(ACL)損傷で最も感度が高い徒手テスト。 |
前方引き出しテスト陽性 | Anterior Drawer Sign | 膝屈曲約90°で脛骨前方移動が増大 | ACL機能不全により脛骨前方制動が失われる。 |
年齢・受傷機転 | 若年成人・非接触スポーツ損傷 | ジャンプ着地・切り返し動作で多発 | ACL断裂の好発背景を示唆。 |
これらの組合せは ACL損傷 を最も疑わせるパターンです。軟部組織(靱帯・半月板)の状態を詳細に同定できるのは 磁気共鳴画像法(MRI) であり、臨床診断確定と同時に合併損傷の有無(半月板損傷、骨挫傷など)を網羅的に評価できます。46期公式「運動器チュートリアル試験」でも同様の設問(📄2-1134)があり、正答はMRIと明示されています。
【正解】
d 膝関節MRI
【演習問題 5問セット】
No. | 問 題 | 選択肢 | 正解 | 解 説 |
---|---|---|---|---|
1 | 19歳男性。サッカーで膝を捻り、Lachman+・Pivot-shift+。診断確定に最も有用な検査は? | a X線 b CT c MRI d エコー e 関節造影 | c | ACL損傷の靱帯連続性・骨挫傷を評価できるのはMRI。X線・CTは骨のみ。 |
2 | ACL急性完全断裂で早期にみられる所見はどれか。 | a 即時関節血腫 b 外側側副靱帯弛緩 c Hughston兆候 d 膝伸展拘縮 e 半月板ロッキング | a | 前十字靱帯は豊富な滑膜血行を持ち、断裂→迅速な関節内出血(血性関節液)。 |
3 | ACL再建術のグラフト採取部として最も一般的なのは? | a 大腿筋膜張筋腱 b 膝蓋腱中央1/3 c 半腱様筋腱単独 d 腓腹筋腱 e 長腓骨筋腱 | b | Bone-patellar tendon-bone (BPTB) が古典的標準。最近は半腱様筋+薄筋腱も選択肢。 |
4 | 前十字靱帯機能不全でみられる動的不安定性テストは? | a McMurray b Pivot-shift c Thessaly d Apley圧迫 e J-sign | b | Pivot-shiftテストは脛骨前方サブラックス+内旋を再現し不安定性を客観視。 |
5 | 若年ACL損傷後の保存療法で推奨されないのは? | a 大腿四頭筋強化訓練 b 膝装具着用 c ジョギング再開即時許可 d 関節可動域訓練 e ハムストリング強化 | c | 急性期に動的剪断応力を加える運動(ジョギング・カッティング)は再損傷・半月板損傷リスク。 |
【演習問題・解説集の使い方】
基礎知識確認 — Problem 1で画像診断の選択根拠(軟部組織描出)を再確認。
病態生理リンク — Problem 2で急性期症候(血腫)=血行解剖を紐づけ。
治療オプション — Problem 3で再建術材料と合併症(膝蓋腱痛)を整理。
機能評価 — Problem 4で静的 vs 動的不安定性の違いを理解。
リハ禁忌 — Problem 5で保存療法中の運動負荷量を判断。
各問題は46期~令和6年度運動器過去問(公式PDF)に頻出のACL周辺テーマを再構成しています。正誤根拠を明示したうえで学習サイクル(疑問→検証→復習)を回せる設計にしていますので、活用してみてください。
ACL損傷診断をさらに深めるポイント
1 ️⃣ 臨床─画像アルゴリズムの整理
ステップ | 推奨検査 | 目的 | 補足 |
---|---|---|---|
①外傷直後 | 単純 X 線 | 骨折・関節内遊離体を除外 | Segond 骨片(外側脛骨辺縁裂離骨折)が写れば ACL 高度損傷を示唆 |
②靱帯不安定性陽性(Lachman/Anterior Drawer/Pivot-shift) | MRI | ACL 連続性・信号変化、半月板/軟骨/骨挫傷を同時把握 | 臨床診断が確実でも術式選択・合併損傷把握のため推奨 (AAOS CPG 2022) (aaos.org) |
③骨傷や骨梁変形が疑わしい | CT | 高分解能で骨欠損・脛骨インサートサイト裂離を評価 | 3D-CT は再建術の骨孔設計に有用 |
④動的軟部組織・血腫量の bedside 評価 | 超音波 | 滑膜皺襞肥厚・タップサイン(血性関節液) | ACL 本体は視認困難;技師依存性高 |
要点 MRI は“診断ゴール”ではなく 治療計画を成立させる決定打。CT/US は補助的手段と位置づける。
2 ️⃣ MRIで押さえる医学用語付き主要所見
MRI 所見 | 医学用語 | 意義 |
---|---|---|
discontinuity of ACL fibers | 靱帯線維不連続 | 完全断裂の直接所見 |
high-signal intensity on PD-FS/T2WI | 高信号化 | 靱帯実質浮腫・部分断裂 |
“Empty notch sign” | 大腿骨間窩空虚像 | ACL欠損により notch が空洞化 |
骨挫傷 (bruising) on lateral femoral condyle & posterolateral tibial plateau | 外側顆骨挫傷 | pivot-shift injury pattern―外旋・前方剪断時の衝突跡 |
Anterior tibial translation ≧ 7 mm vs. contralateral side | 脛骨前方偏位 | 機械的前方不安定性の間接指標 |
🔎 撮像推奨シーケンス
ESSR ガイドラインでは T1WI・PDWI・PD-FS の 矢状断を“必須”とし、冠状/水平断で付帯損傷を確認するよう推奨しています。(pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
3 ️⃣ 関連試験出題パターン(40〜46 期 PDF 対応)
年度・問題 | キーワード | 本問とのリンク |
---|---|---|
2-1134 (令和6) | Lachman+・MRI | 同一テーマ:ACL 損傷と画像選択 |
43 期 #67 | 転倒→血性関節液→前方不安定 | “血性滑液”は ACL 急性完全断裂の典型 |
45 期 #31 | Pivot-shift テスト | Lachman 陰性例でも動的不安定性を検出 |
46 期 #44 | 野球肘骨端障害 (離断性骨軟骨炎) | MRI 撮像で骨軟骨・軟部組織を総合評価 |
過去問は「症候(徒手テスト)→最適画像」のセットで頻出。ACL 以外でも 半月板損傷(McMurray+→MRI)、MCL 損傷(外反ストレス+→US/MRI) など同じロジックで出題される。
4 ️⃣ 他疾患との鑑別に役立つ所見整理
疾患 | 主徴候 | 決め手画像 |
---|---|---|
PCL損傷 | 後方引き出しテスト陽性、Sag sign | MRI :PCL wavy/high-signal、posterior tibial translation |
半月板断裂 | McMurray/Thessaly陽性 | MRI :intrameniscal high-signal reaching articular surface |
MCL損傷 | Valgus stress test陽性 | MRI または US :MCL厚み↑・部分断裂 |
5 ️⃣ 学習Tips(記憶術)
「Lachman=Ligament Tear (ACL) ⇒ MRI」
Pivot→骨挫傷パターン = 外側顆+脛骨後外側(P & P)。
X線で骨折なしなら“軟部を見る”=MRI を思い出す。
6 ️⃣ 最新ガイドライン抄訳(AAOS CPG 2022)(aaos.org, pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
徒手検査 2 種類以上陽性なら ACL 損傷疑い。
治療計画(保存 vs 再建)前に MRI を取得:合併半月板損傷の同時治療方針を立てるため。
小児ではエコー補完可だが“definitive imaging”は MRI。
X 線は必須の初期検査(Segond fracture・脛骨棘裂離の確認)。
まとめ
Lachman + 前方引き出し陽性 ⇒ 前十字靱帯損傷を最強に疑う。
MRIは靱帯連続性と合併損傷の “ワンストップ評価” としてゴールドスタンダード。
過去問は “症候 or 徒手テスト → 適切画像” の紐づけが頻出。ACL 以外でも同構造で出題されるので横断的に整理しよう。
ACL損傷 vs PCL損傷 ― 図の読み取りポイントと国試で問われやすい差異
項目 前十字靱帯(ACL)損傷 後十字靱帯(PCL)損傷 好発機転 ⚽️バスケット・サッカーなどの非接触ピボット動作(ジャンプ着地・切り返し)🚑 接触(タックル)でも発生 🚗 ダッシュボード損傷(交通外傷)🏈 スポーツ接触で膝前面を後方から強打 急性期所見 ・受傷時「ポップ音」・激痛・数時間以内に血性関節腫脹(関節血症)・膝くずれ感/不安定感 ・関節血腫は軽度~不定・後方ストレス時痛、膝裏部打撲痛・膝不安定感は ACL より軽いことも 徒手検査 前方引き出しテストLachmanテスト(感度最高)Pivot‐shift〈回旋不安定性〉 後方引き出しテスト落ちこみ徴候(Sag sign) 画像 ▶︎MRI:靱帯連続性消失、高信号▶︎外側顆&脛骨後外側骨挫傷パターン ▶︎MRI:PCL高信号・波状像/肥厚▶︎後方偏位≧7 mm が間接徴候 治療 🔹急性期RICE→可動域訓練🔹再建術:BPTBまたはハムストリング腱グラフト (若年・pivotスポーツ選手は手術推奨) 🔸単独損傷は保存(大腿四頭筋強化)主体🔸複合靱帯損傷・顕著不安定例は再建術検討 図の“ここが国試頻出”
血性関節液=ACL高確率
→「受傷数時間後の高度腫脹」はPCLでは稀。Sag sign(落ちこみ徴候)は唯一PCL特有。
|膝90°屈曲位で脛骨粗面が大腿骨顆に対し後方へ落ち込む|Lachmanテスト:膝20–30°軽屈曲位で前方移動≧1 cmは陽性。
→Pivot‐shiftより感度高い。機転のすみ分け
非接触+切り返し=ACL
ダッシュボードで脛骨近位端後方に衝撃=PCL
治療方針の違い
ACL:スポーツ復帰目的の再建術が標準化
PCL:保存的に経過観察→四頭筋強化
速攻チェックリスト(暗記カード代わり)
前方→ACL/後方→PCL:脛骨の偏位方向で覚える
「3A」=ACL
Anterior drawer
Anterior translation
Acute hemarthrosis
Sag=Sagittal落ち込み=PCL
学習アドバイス
徒手検査の手順を実技で再現してみる(友人同士で脛骨の前後移動量を触覚で記憶)。
MRI矢状断を10枚並べてACL線維の連続性をトレース→断裂像をイメージ化。
過去問リンク付け:44期 #31(Pivot-shift),43期 #67(血性関節液)などと照合しておくと記憶が定着します。
この一枚にACL/PCLの鑑別エッセンスが凝縮されています。テスト前に図を頭に焼き付けて、キーワードを口に出して確認すると効果的ですよ!
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