PCIとIABP


1️⃣ BCIS‑1 試験の結論 ―「長期死亡率」は有意に改善


デザイン

対象

主要評価項目

フォローアップ

主な結果

無作為化 301例(左室駆出率 <30%+重症3枝病変)計画的 IABP 併用 PCI 151例 vs 併用なし 150例

高リスク選択的 PCI(待機的)

当初:院内 MACE(死亡・MI・CVA・再血行再建)

中央 51 か月

全死亡:IABP 群 28% vs 対照 38%ハザード比 0.66、95%CI 0.44‑0.98、P = 0.039 ― 34%相対リスク低下 

✅ つまり BCIS‑1 では「計画的 IABP 併用 PCI」で長期生存が有意に良好。ただし


  • 初期の主要評価項目(院内 MACE)は差がなく、
  • 症例数は小規模で open‑label、cross‑over もあり、
  • 解析は長期追跡の事後的評価。
    そのためガイドラインは “一部の患者に検討可能(Class IIb)” にとどめています  。






2️⃣ 他の代表的 RCT とメタ解析 ― 症例像が変わると効果は乏しい


試験

症例

シナリオ

主要結果

IABP‑SHOCK II (NEJM 2012)

600 例

急性心筋梗塞+ショックで早期再灌流予定

30 日・1 年死亡率とも差なし 

CRISP‑AMI (JAMA 2011)

337 例

前壁 STEMI(ショックなし)で一次 PCI 前に予防的 IABP

梗塞サイズ・臨床転帰とも差なし 

PROTECT II (Impella 2.5 vs IABP, Circulation 2012)

452 例

高リスク PCI での補助循環比較

30 日 MACE 差なし、Impella がより強い血行動態支持 

メタ解析 2013‑23

11 研究

計画的 IABP 併用 HR‑PCI

死亡・MACE 改善なし → EAPCI 勧告では routine 使用推奨せず 

📝 共通メッセージ


  • “ショック症例” や “急性 STEMI での routine 併用” では利益証明なし。
  • ハイリスクだが hemodynamically stable な PCI ではエビデンスが乏しく、IABP より新規補助循環(Impella、ECMO 等)が検討され始めている。






3️⃣ 最新ガイドラインの立ち位置



  • ACC/AHA/SCAI 2021 冠動脈血行再建ガイドライン
    • Class IIb/Level B-NR:「血行動態破綻が予測される選択的高リスク PCI で IABP を考慮してもよい」 
      → “してもよい” 程度で、必須ではありません。






4️⃣ 臨床でどう判断する?


IABP を「置く」ほうが前向きに考えられる場面

置かずに他手段/無補助で臨む場面

* LVEF ≦ 30 % かつ 多枝病変など BCIS‑1 と近い背景* TAVI/カテアブなど離脱困難でPCI 中の一過性低血圧が高リスク* 資源の制約で Impella が使えない

* ショック症例(IABP-SHOCK II では利益なし→より強力な補助循環を検討)* 急性 STEMI で routine 併用(CRISP‑AMI で無効)* 大口径デバイスが挿入可能でより高い流量を要する→ Impella/VA‑ECMO のほうが適切

💡 コツ:IABP は“血圧サポーター”程度の流量(0.5 L/min 相当)。「冠血流確保と左室 afterload 低減が少し欲しい」程度のケースが適応ゾーン。





5️⃣ Take‑Home Message



  • BCIS‑1 では計画的 IABP 併用が長期死亡率を 34 % 減少。ただし一次評価項目では差がなく、証拠レベルは限定的。
  • “急性心筋梗塞+ショック” や “routine 前壁 STEMI” では 利益は示されず。
  • 現行ガイドラインは 「選択的高リスク PCI で検討可(IIb)」。Impella などの MCS との比較・組み合わせが今後の焦点。





🎉 励ましとひとことユーモア

「IABP を挿すかどうか」は心臓カテの“さしすせそ”の “さ”(“サポートどうする?”)——迷ったら BCIS‑1 を思い出しつつ、“臨床像”と “エビデンスの届く距離” を秤にかけて判断しましょう。今日も安全第一で PCI ラボを攻略、ファイトです!


「置かない」こと自体が即‐アウトではないが、

症例によって“落とし穴”が大きく変わる

──これが実際のリスク感


シナリオ

IABP を 置かない場合に起こり得る不利益

エビデンスの裏付け

① 重症 LV 機能低下+広範三枝病変など、いわゆる HR-PCI

手技中の急性低血圧/VT・VF → 緊急 IABP(bail-out)や CPR が必要になる確率が上がる長時間ロータブレーター・ステント拡張が“肝”の場合は手技成功率↓

イタリア Briguori ら(n = 133)で 重篤低血圧・ショック 0 % vs 15 %、intraprocedural MACE 0 % vs 17 %(elective vs provisional IABP)

② BCIS-1 と同じく LVEF < 30 % で elective PCI

5 年死亡率が 10 pt ほど高くなる可能性(28 % vs 38 %)

BCIS-1 長期解析:HR 0.66, P = 0.039 

③ AMI+ショック、または routine STEMI

IABP を置いても死亡率に差が出ない → 置かないこと自体の「ペナルティ」は限定的

IABP-SHOCK II(AMI-CS)、CRISP-AMI(前壁 STEMI)とも死亡・梗塞サイズ差なし 

④ 複雑 CTO や ULM だが LVEF 温存、周術期血圧安定

大きな不利益は報告されていない。むしろ IABP 合併症(2-5 %:血管損傷・出血・感染) のコストが勝ることも

メタ解析 11 研究:MACE・死亡に有意差なし、アクセス合併症も同等 





◆ ガイドラインの温度感



  • ACC/AHA/SCAI 2021:高リスク選択的 PCI で 「考慮してもよい (Class IIb, B-NR)」 ─ 必須ではなく“適材適所”を強調  。






では実際「置かないリスク」はこう考える!



  1. “バイタルの懸け橋が一本しかない”
    最後の開存血管、LVEF ≦ 25 %、多枝病変で 3 本同時に長時間 occlusion を予定
    → バルーンを入れずに行くと、bail-out IABP → 予後悪化のシナリオが現実味。
  2. “橋は二本以上・水圧もそこそこ”(EF 良好・局所病変)なら、置かない選択でも OK。
    新世代 DES とガイデッド PCI 技術で短時間に決まるなら、追加リスクは限定的。
  3. **“橋は脆いが大型クレーン(Impella/ECMO)がすぐ呼べる”**施設なら、
    IABP を飛ばしてインペラ直行も選択肢(より強い after-load 低減/流量確保)。






✅ 実践チェックリスト(朝のカテ前カンファで 30 秒!)


項目

Yes

No

LVEF < 30 % or BCIS jeopardy > 8?



左主幹部・唯一開存血管・広範狭窄で長時間 balloon occlusion 予想?



透析シャント・末梢動脈病変でIABP が入れにくい?



Impella/ECMO が即時使えない?



→ Yes が 2 つ以上 ⇒ elective IABP を前向きに検討

→ Yes ≤1 つ ⇒ 無補助 or 他 MCS で Go も合理的





🎯 Take-Home



  • 置かない=必ず危険ではない。
    「左室が危うい」「三枝が一気に閉じる」「代替 MCS が無い」――この 三拍子が揃うとリスクが跳ね上がる。
  • 逆に AMI-CS や routine STEMI では IABP 自体が“切り札”にならない。
  • IABP 合併症(穿刺部出血・下肢虚血)は 2-5 % 程度。リスクと天秤にかける。
  • “迷ったらシミュレーション”:カテ室で 30 秒イメトレ、血圧が落ちた瞬間のプラン B を必ず決めてからスタート!





💪 エール&小ネタ

カテ室の神様は“準備した人”に味方します。IABP を置くか置かないか――決断は“置く前”から始まってる! 今日も安全第一で行きましょう、先生なら絶対切り抜けられます🚀


おっしゃるとおりです! IABP は Impella より “ハードル低め” なので、日本でも救急指定病院から中規模総合病院までかなりの施設が常備しています。ポイントを整理すると――

項目

IABP

Impella

厚労省の届出施設基準

「循環器・心外・麻酔いずれかで5年以上の経験医が1名以上」で届出可能──たった 1 行の要件だけ 😲

“Impella 実施施設認定基準”で、体外循環技術認定士 or 人工心臓管理技術認定士を含む臨床工学技士3名以上常勤+24h対応体制など複数条件

初期コスト

本体再利用+バルーン使い捨て(保険点数 ≒ 8万点)

コンソール+カテーテル 1 本 250〜300 万円 ▶︎ 原価高

透析シャント/PAD 患者への挿入

7.5 Fr ~ 8 Fr → 比較的血管径の制約が少ない

14 Fr 以上&機械拍動 → 末梢血管障害リスク高

補助流量

0.5 L/min 相当(圧補助型)

3.5 L/min 超(流量補助型)

よく使われる臨床シナリオ

Elective/HR-PCI の「念のため」サポート、AMI 後の短期 Bridge(血圧テコ入れ)

AMI-CS、開胸前後の LV-unload、ECPELLA 組み合わせ … 高流量が必要な場面

根拠となる施設基準


  • IABP:届出要件は上表の 1 行のみ。医師 1 名+手技実績の証明があれば届け出完了  
  • Impella:学会・PMDA が定める「Impella 実施施設認定基準」で、臨床工学技士要件などが明文化(例:CE 3 名以上+うち 2 名は VAD/体外循環資格)  






だからこそ起こる “IABP あるある”



  1. 「置く?置かない?」の議論は毎日
    置く派は BCIS-1 の長期生存改善を拠り所に、置かない派は IABP-SHOCK II を引き合いに「どうせ流量出ないし」と主張――議論は尽きません。
  2. “設備はあるけどスタッフは…” 問題
    夜間にバルーン交換やトラブル対応ができる看護師・CE が不足し、置いたはいいが管理が回らないケースもちらほら。
  3. 置きやすい=抜きやすい
    IABP は足を上げる・服薬を調整するなどで抜去可 ⇒ ICU 滞在短縮に寄与しやすい。Impella は抜去にも OR or ハイブリッド室が必要なことも。






臨床インパクトの “さじ加減”



  • 高リスク PCI で LV EF < 30 %+多枝病変:
    「症例が小さくても長期には 10 pt 差の死亡率」を示した BCIS-1 が一応の後ろ盾。施設に IABP があれば“挿し得”シナリオ。
  • AMI+ショック では IABP-SHOCK II が “差なし” を証明 → “Impella か ECMO の出番” という流れ。
  • コスト vs ベネフィット:流量が本当に必要か? 「冠灌流+after-load ちょい下げ」で十分なら IABP、全身血流までゴッソリ欲しければ Impella/ECMO――この住み分けが実際のところ。






先生へのエール ✨



“IABP は『置ける環境』が多い=武器庫にある投げやすい手裏剣”。でも手裏剣は当たる距離と投げ方が命。症例の落とし穴をイメトレしてから投げれば、きっと心筋も患者さんも守れます! 今日も安全カテ実況、ファイトです🔥



ガイドラインは「ルーチン標準」とは位置付けていない



──使うかどうかは シナリオ別に強さが大きく変わる、というのが現在の公式スタンスです。

臨床シーン

推奨クラス・エビデンス

根拠となる主なガイドライン・文献

① 急性心筋梗塞+ショック (AMI-CS) での routine IABP

Class III(推奨せず)/Level B

ESC/EACTS 2018 Myocardial Revascularization Guideline:「IABP-SHOCK II で生存利益なし → routine 使用は勧めない」

② 選択的・計画的 “高リスク PCI (HR-PCI)” での予防的 IABP

Class IIb(“考慮してもよい”)/Level B-NR

ACC/AHA/SCAI 2021 Coronary Revascularization Guideline:重症LV機能低下や多枝病変などで “elective MCS (IABP or Impella など) を用いてもよい” 

③ ショックはない急性 STEMI での routine 予防的 IABP

記載なし/エビデンス不足 (事実上 “推奨せず”)

CRISP-AMI ほか RCT で梗塞サイズ・転帰に差がなかったため、主要ガイドラインは推奨を記載せず

④ 日本のショック対応アルゴリズム

「ショック Stage C–D で “カテ前の初期治療” として IABP±カテコラミン」

JCS/JSCVS/JCC/CVIT 2023 PCPS/ECMO/Impella 指針:IABP を初期サポートの選択肢に列挙し、低灌流持続時は Impella/ECMO へステップアップ 


なぜ“標準”になり切れないのか?



  • AMI-CS では無効
    IABP-SHOCK II が 30 日・1 年生存率とも差を示せず。“やれば良い” という前提が崩壊しました。
  • HR-PCI はエビデンスが断片的
    BCIS-1 が長期死亡率低減を示した一方、PROTECT II など比較試験は流量の大きい Impella に軍配。症例選択が課題。
  • 新世代デバイスとの競合
    大流量を要する場面では Impella / ECMO に置き換わりつつあるため、ガイドラインは “個別判断” の表現に。




実臨床での使い分け — 簡易フローチャート



  1. ショック or ショック寸前?
    Yes → まず IABP±薬物で安定化。CPO・乳酸が改善しなければ Impella/ECMO へ。
  2. LV EF <30 % + 多枝病変で長時間バルーン閉塞が濃厚?
    Yes → 計画的 IABP を検討(ACC IIb 推奨域)。
  3. EF 良好・局所病変・短時間手技?
    → 無補助 or 軽量デバイスで OK。IABP 合併症(穿刺部出血・下肢虚血 2–5 %)リスクを回避。




先生へのワンポイント



IABP は“かつ丼の漬物”──“無いと寂しい” 症例もあれば、“なくても困らない” 症例も。

ガイドラインが示すのは「必須ではなく適材適所」。患者像・施設資源・バックアッププランの三拍子で決め打ちしましょう!


今日もカテ室を安全運航、ファイトです💪



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