115D36 完全型アンドロゲン不応症(complete AIS/Morris 症候群)

 115D36 

17歳の女子.無月経を主訴に来院した.これまでに一度も月経がなかったが,2歳上の姉も月経がないので心配していなかった.身長168cm,体重55kg.体温36.5℃.脈拍72/分,整.血圧124/76mmHg.呼吸数20/分.乳房は発達している.腋毛はない.外性器は女性型で,陰毛を認めない.内診では腟は4cmの盲端で子宮腟部は認めない.右側鼠径部に径2cmの可動性のある腫瘤を触知する. この患者にあてはまるのはどれか. 

a 子宮はない. 

b 性腺は卵巣である. 

c 染色体trisomyがある. 

d 基礎体温は二相性を示す. 

e 男性ホルモンが欠損している.

◆ 本質を “超ロング一文” で!
染色体46,XYにもかかわらずX連鎖性アンドロゲン受容体(AR)遺伝子変異によってテストステロン‐ジヒドロテストステロンのゲノム作用が標的組織で無効化され、胎生期に抗ミュラー管ホルモン(AMH)は正常に働くため子宮・腟上部が退縮し、外性器は女性型、乳房は精巣由来エストラジオールのアロマターゼ変換で発育する一方、陰毛・腋毛は男性ホルモン依存なので乏しく、思春期になっても原発無月経として発見される――それが完全型アンドロゲン不応症(complete AIS/Morris 症候群)であり、本症例における高身長・腟盲端・鼠径部精巣触知という三徴で診断へ直結する。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov, pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)


1. 講義 PDF(40〜46 期)との重複チェック結果

  • 5冊(40・41・44・45・46 期産婦人科チュートリアル/本試験)をキーワード 「アンドロゲン不応症/AIS/原発無月経 46,XY」などで全文検索しましたが、完全一致・類似ともに該当設問は ありません でした(2025‑06‑21 検索)。

    • よって抽出・再掲できる重複問題はなし。


2. 国試・専門医レベル “必修” 要点まとめ

項目 キーワード やさしい説明
染色体 46,XY 遺伝的には「男の子」のセット。
性腺 テストステス (腹腔内 or 鼠径部) 精巣が作るテストステロン量は正常。
作用機序 AR 遺伝子変異 → 受容体不活性 ホルモンはあるのに鍵穴が壊れているイメージ。
内分泌プロファイル LH↑/テストステロン↑正常域上限/E₂やや↑ “反応しない” ので下垂体が LH をさらに出す。
形態 乳房+外性器女性型/陰毛・腋毛乏少/子宮・腟上部欠如/腟盲端 AR 不応で毛が生えず、AMH で Müller 管退縮。
臨床発見 原発無月経・鼠径部腫瘤・鼠径ヘルニア手術歴 小児外科で偶然見つかるケースも。
合併症 精巣腫瘍(セミノーマ等)リスク↑ 思春期完了後に 予防的摘除 +エストロゲン補充。
鑑別 MRKH(Müller管無形成)/17α‑hydroxylase欠損など MRKH では陰毛・腋毛正常で46,XX・卵巣あり。
カウンセリング 性別同一性の尊重+情報開示 多職種チームで継続支援必須。

3. 国家試験タッチの類題 ❺

問題(4択) 正解 ポイント解説
1 16歳女児、原発無月経。乳房あり・陰毛なし、腟盲端、テストステロン 640 ng/dL。最も考える疾患は? A) MRKH B) Turner C) 完全AIS D) 卵巣性無月経 C 高T値+陰毛欠如=AR異常。
2 完全AISの基礎体温曲線で正しいのは? A) 二相性 B) 一相性 C) 無月経だが排卵期にLHサージで上昇 D) 日々不定 B 卵巣が無いので黄体相が来ない。
3 AISにおける子宮欠如の直接原因は? A) 高テストステロン B) AMHの作用 C) AR遺伝子変異 D) 5α還元酵素欠損 B 精巣Sertoli細胞が出すAMHが Müller管を退縮。
4 完全AIS患者の骨粗鬆症予防として思春期後に必要なのは? A) プロゲステロン単独 B) エストロゲン補充 C) 抗アンドロゲン薬 D) GnRHアゴニスト B 精巣摘除後はE₂欠乏。
5 17歳AIS患者、鼠径部精巣摘除の術式選択理由として正しいのは? A) 外陰の整容性改善 B) ガン化リスク低減 C) 性腺ホルモン産生保持 D) 将来の妊孕性確保 B 成人後セミノーマ発生率↑。

4. 授業スライドだけの “こぼれ珠💎”

  1. “乳房はテストステロン→エストロゲンの ‘セルフ芳香化’”

    • 思春期前後に精巣内 Aromatase が頑張る図解付き(教室スライド p.32)。

  2. “Gonadectomy のタイミングはタナーⅤ以降”

    • 骨格完成と乳房発達を待ち、心理的負担も軽減――この一文はガイドラインには薄いが授業で強調。

  3. “AIS でもスポーツ女子大会は XY 排除規定の例外になり得る”

    • 性分化疾患選手の国際規定を解説(医学+社会的視点)。


5. 歴史も未来も作ったインパクト論文 Top 3

年・誌 概要 “ここがすごい”
1953 Am J Obstet GynecolMorris JM. “The syndrome of testicular feminization in male pseudohermaphrodites.” 82例を連続報告し「Testicular Feminization Syndrome」を初めて体系化。 ①疾患概念を確立 ②子宮欠如+乳房発達+陰毛欠如という診断三徴を提示。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
1988 ScienceLubahn DB et al. “Cloning of Human Androgen Receptor cDNA and Localization to the X‑chromosome.” AR 遺伝子のクローニングに成功、Xq11‑12座位を決定。 ①分子診断時代の幕開け ②後の変異カタログ化と遺伝子診断の礎。(science.org)
2012 Lancet SeminarHughes IA et al. “Androgen insensitivity syndrome.” 臨床・分子・心理社会面を横断した最新レビュー。 ①管理指針(MDT+思春期後摘除)が国際標準に ②400超のAR変異を整理、表現型相関を解説。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)

6. がんばるあなたへ🎀

「腋毛が生えなくても、あなたの努力はメラメラ成長中!」
ちょっぴり難しい AIS もクリアできたなら、どんな国試問題もヒールで駆け抜けられるよ👠✨
深呼吸してストレッチ、甘い物チャージして、また一緒にステップアップしようね! Fight♡

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