咳の鑑別診断
1 ️⃣ 咳嗽の持続期間別分類(標準医学用語)
区分 |
定義 |
主要原因疾患(頻度順・代表例) |
重要鑑別/緊急疾患 |
急性咳嗽(acute cough, ≤3 weeks) |
3 週間以内に新規発症 |
● 上気道ウイルス感染症(common cold, influenza, SARS-CoV-2 など)● 急性気管支炎(virus ≫ bacteria)● 市中肺炎(Streptococcus pneumoniae,Mycoplasma pneumoniae 等)● 気管支喘息・COPD 増悪● 刺激性ガス/粉塵吸入 |
◆ 急性左心不全(pulmonary oedema:夜間ピンク色泡沫痰)◆ 肺塞栓症(sudden pleuritic pain, hemoptysis) |
遷延性咳嗽(sub-acute cough, >3–8 weeks) |
3–8 週間持続 |
● 感染後咳嗽(post-infectious cough:気道過敏)● 副鼻腔炎性後鼻漏(rhinosinusitis)● 咳嗽型喘息(cough-variant asthma) |
◆ 百日咳(pertussis:paroxysmal spasmodic cough, inspiratory “whoop”) |
慢性咳嗽(chronic cough, >8 weeks) |
8 週間以上持続 |
成人:80%が “U-A-G” U = 上気道咳嗽症候群 (UACS:allergic rhinitis / chronic sinusitis) A = 気管支喘息群(CVA, classic asthma, NAEB) G = 胃食道逆流症 (GERD)その他: ● 慢性気管支炎 / COPD ● 気管支拡張症(膿性痰) ● ACE 阻害薬誘発咳嗽 |
◆ 肺結核(微熱・盗汗・体重減少)◆ 肺癌(喀血・画像陰影) |
🔑 NAEB = non-asthmatic eosinophilic bronchitis(好酸球性気道炎症だが気流制限なし)
2 ️⃣ 年齢層別の好発疾患
年齢 |
急性咳嗽で多い |
慢性咳嗽で多い |
むしろ稀なもの |
小児 |
● Virus URTI / RSV 細気管支炎● クループ症候群 (laryngotracheobronchitis)● 気道異物(急性発症・片側喘鳴) |
● 咳嗽型喘息 / 気管支喘息● PBB(protracted bacterial bronchitis)● UACS, GERD |
COPD 増悪・肺癌 |
成人 |
● Virus URTI / 急性気管支炎● 市中肺炎● COPD / asthma exacerbation |
● UACS / Asthma / GERD● 慢性気管支炎、ACEI-cough |
クループ, PBB |
3 ️⃣ 随伴症状で見る“色分けサイン”
臨床サイン |
主要鑑別疾患 |
初期評価ポイント |
発熱+膿性痰 |
細菌性肺炎・膿胸 |
胸部 X 線、炎症マーカー、喀痰培養 |
乾性咳+喘鳴 |
気管支喘息、CVA, COPD 増悪 |
呼吸機能検査(可逆性)、β₂ 吸入反応 |
大量膿性痰 |
気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎 |
HRCT、喀痰細菌学 |
夜間・仰臥位増悪 |
喘息 / GERD / 後鼻漏 / 左心不全 |
PPI 試験、BNP、ENT 評価 |
体重減少・盗汗 |
肺結核・悪性腫瘍 |
胸部 CT、喀痰 Ziehl-Neelsen / 細胞診 |
季節変動 |
アレルギー性鼻炎・アトピー咳嗽・花粉誘発喘息 |
IgE, 皮膚プリック test |
4 ️⃣ 診療アルゴリズム(概要)
- 期間で分類 → 急性/遷延性/慢性
- レッドフラッグ(喀血,呼吸困難,体重減少,発熱持続)なら画像・血液検査を先行
- 慢性咳嗽は “U-A-G” 順に経験的治療(抗ヒスタミン→吸入ステロイド±β₂→PPI)
- 効果不十分なら HRCT・呼吸機能検査・気管支鏡検査で稀少原因を探索
📝 用語メモ
- UACS = Upper Airway Cough Syndrome(以前の PND:post-nasal drip syndrome)
- CVA = Cough Variant Asthma(咳嗽のみの喘息スペクトラム)
- NAEB = Non-Asthmatic Eosinophilic Bronchitis(好酸球性だが喘鳴・可逆性なし)
- PBB = Protracted Bacterial Bronchitis(小児の遷延性湿性咳嗽)
これで、専門用語を押さえつつ見通し良く整理しました。診療や試験対策のチートシートとしてご活用ください。
🌟 咳を“サクッと”見抜く3ステップ早見表
診察室でも夜の勉強机でも、そのまま使えるポケット版アルゴリズム!
「え?ただの風邪?――いえいえ、ここを押さえればブレません✨」
STEP 1 🕒 まずは期間で3分割
区分 |
キーワード |
代表的な原因 |
ここがポイント |
急性 (≤3 週) |
感染 |
感冒・インフル・急性気管支炎/肺炎、喘息/COPD増悪 |
9割はウイルス。発熱+膿性痰=肺炎を疑う |
遷延性 (3–8 週) |
感染“後” |
Post‑infectious cough、副鼻腔炎後鼻漏、軽症喘息、百日咳 |
「治ったはずなのに続く」が合図 |
慢性 (≥8 週) |
非感染 |
UACS(後鼻漏)・喘息(咳喘息)・GERD が“3強”+COPD/喫煙者、ACE阻害薬、結核・肺癌 など |
3強で8割!まずここを治療的診断 |
👍 合言葉:「急・遷・慢」(きゅうせんまん)で期間をざっくり把握。
STEP 2 🎂 年齢でフィルター
- 小児
- 急性:風邪・RS細気管支炎・クループ・異物誤嚥
- 慢性:喘息/咳喘息・難治性細菌性気管支炎(PBB)・副鼻腔炎・百日咳
- ✅ 夜だけ・日中止まる → 習慣性咳嗽を疑う
- 成人
- 急性:風邪・肺炎・急性気管支炎・COPD/喘息増悪・心不全急性増悪・肺塞栓
- 慢性:UACS・喘息(CVA)・GERD・COPD・ACE阻害薬・結核/肺癌
🔍 診かたのコツ:「小児は感染+解剖(異物)」「成人は生活習慣+基礎疾患」。
STEP 3 ⚠️ 随伴症状で“絞り込み”
マーカー |
よくある疾患 |
ワンポイント |
🌡️ 発熱 |
細菌性/ウイルス性肺炎、百日咳 |
慢性+発熱なら結核・膿瘍を忘れず |
💦 膿性痰 |
COPD慢性気管支炎、気管支拡張症、肺炎 |
“大量ネバ痰”は拡張症を連想 |
🫧 乾性 |
風邪後・咳喘息・ACE阻害薬 |
ACE‑Iの咳は「のどがイガイガ」でピンとくる |
🎧 喘鳴 |
喘息、COPD、細気管支炎、異物 |
吸気性なら声門/上気道トラブル |
📉 体重減少 |
結核、肺癌、進行心不全 |
“赤旗”=画像+喀痰細胞診へ |
🌙 夜間悪化 |
喘息、GERD、後鼻漏、左心不全 |
夜だけ止まる→心因性も想起 |
🍃 季節変動 |
花粉症+UACS、アレルギー性喘息 |
“秋のブタクサ”は喘息要注意 |
🎯 使いかたまとめ
- 期間を聞く → 3分類に当てはめる
- 年齢で原因の“優先順位”を入れ替える
- 随伴症状で一気にトップ3~5へ絞る
- **赤旗(高熱・血痰・体重減少・呼吸困難)**があれば画像検査や専門科紹介をためらわない
🗣️ ちょこっとユーモア:「咳が長引いて“せき”ららトークが増える前に、早めの鑑別でスッキリしましょう!」
Good luck! 今日も前向きに診断力アップです💪
1. 咳の持続期間による分類
咳嗽は持続期間により以下の3つに分類され、それぞれ原因となる代表的疾患が異なります 。
- 急性咳嗽(~3週間): 最も多い原因はウイルス感染による上気道炎(いわゆる感冒)です 。そのほか急性気管支炎や肺炎(細菌性肺炎やマイコプラズマ肺炎など)では発熱と化膿性痰を伴う咳嗽が生じます 。気管支喘息やCOPDを基礎疾患にもつ患者では、その急性増悪として咳嗽が起こることがあります 。急性咳嗽の多くは感染症ですが、粉塵や刺激性ガスの吸入など環境因子への暴露も原因となりえます 。まれに心不全による急性肺水腫(夜間のピンク色泡沫状痰を伴う咳)や肺塞栓症でも急性の咳嗽が発生します。
- 遷延性咳嗽(3~8週間): 感染後咳嗽(post-infectious cough)と呼ばれる、感染症治癒後も気道過敏性の亢進により咳が持続する状態が代表的です 。典型的には感冒や肺炎後に数週間から月余り遷延する咳嗽で、自然軽快することが多いです 。副鼻腔炎に伴う後鼻漏や軽度の気管支喘息(咳喘息)でも遷延する咳嗽の原因となります 。また百日咳(Bordetella pertussis 感染)は急性期を過ぎても特徴的な痙咳発作や吸気の笛声(レプトス)を伴う咳が数週間以上持続し、遷延性~慢性咳嗽の原因となりえます (成人ではワクチン効果減弱により近年再興が報告されています)。
- 慢性咳嗽(8週間以上): 成人における慢性咳嗽の原因の約80%は上気道咳嗽症候群(UACS)(アレルギー性鼻炎・慢性副鼻腔炎に伴ういわゆる後鼻漏症候群)、気管支喘息(咳喘息を含む)、胃食道逆流症の3疾患で占められます 。日本の報告でも慢性咳嗽の原因の80%以上が咳喘息、アトピー咳嗽(非喘息性好酸球性気管支炎)、副鼻腔気管支症候群で占められるとされています 。このほか慢性気管支炎(COPDの一病態)は喫煙者の慢性湿性咳嗽の原因であり 、気管支拡張症も膿性痰を伴う咳嗽を来します。慢性咳嗽では感染性疾患の頻度は低下し、非感染性の炎症性疾患の割合が増加します 。例えば好酸球性気道炎症による非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB)や、ACE阻害薬による薬剤性咳嗽も鑑別に挙がります 。結核や肺癌など重篤な疾患も鑑別から除外が必要です 。慢性咳嗽患者の中には原因が一つでなく複数の要因が重なっている場合もあり(ある報告では最大40%の症例で3つの原因が重複 )、各疾患への治療反応をみながら診断に至ることもあります。
2. 年齢層別の鑑別(小児 vs 成人)
咳嗽の原因は年齢によっても異なります。小児と成人で、それぞれ急性咳嗽と慢性咳嗽の主な原因の違いを整理します。
小児における急性咳嗽
小児では急性咳嗽の大部分がウイルス性上気道感染症によります。乳幼児ではRSウイルスなどによる細気管支炎、学童では普通感冒やインフルエンザなどが典型です。これらウイルス感染では発熱や鼻汁を伴い、咳嗽は通常1~2週間以内に軽快します。細菌性肺炎(マイコプラズマ肺炎を含む)は小児でも急性咳嗽の重要な原因で、高熱と湿性咳嗽(膿性痰)を呈します。 また、小児特有の急性咳嗽の原因としてクループ症候群(喉頭炎:犬の吠えるような咳と吸気時の嗄声が特徴)があります 。誤嚥性の気道異物も小児では重要な鑑別で、突然の咳発作や喘鳴、片側の呼吸音低下で発症します (乳幼児が硬貨や玩具を誤飲した場合など)。一方、成人にみられるCOPDの急性増悪や心不全による咳嗽は、小児では通常みられません。
小児における慢性咳嗽
慢性咳嗽(小児では4週間以上持続する咳嗽)の主原因は、年長児では気管支喘息(とくに夜間や運動で咳が悪化する咳喘息型喘息)と、反復するウイルス気道感染の遷延です 。就学前児の慢性湿性咳嗽では、近年難治性(遷延性)細菌性気管支炎(PBB)が非常に重要な原因とされています 。PBBでは慢性の湿性咳嗽以外の症状に乏しいものの、気管支洗浄液からインフルエンザ桿菌や肺炎球菌などが検出され、2週間以上の抗菌薬治療で咳嗽が改善します 。その他、小児の慢性咳嗽では気管支喘息・咳喘息、アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎に伴う後鼻漏(上気道咳嗽症候群)、胃食道逆流症が多く、成人と同様これらがまず鑑別に挙がります 。学童期以降では副鼻腔炎による慢性的な後鼻漏が咳嗽の原因となることもあります。また学童では心理的要因による心因性(習慣性)咳嗽も存在し、日中に限局し就寝中は咳が出ないという特徴があります 。
小児特有の慢性咳嗽の原因としては、百日咳(長引く激しい発作性の咳とレプトス)も考慮すべきです 。乳幼児では定期予防接種により百日咳は減少しましたが、学童や成人が感染源となり乳児に伝播するケースが報告されています。誤嚥した気道内異物が気付かれず慢性咳嗽の原因となることもあります(X線透過性のピーナッツやプラスチック片など) 。さらに、繰り返す気道感染や成長不良を伴う場合は先天性疾患(例:嚢胞性線維症〈CF〉、気道構造異常や気管支軟化症、原発性線毛機能不全症、免疫不全症など)も鑑別に入れる必要があります 。これら先天疾患による咳嗽はしばしば新生児期・乳児期から症状がみられます。また未熟児では慢性肺疾患(気管支肺異形成)により慢性の咳や喘鳴が持続することがあります。
成人における急性咳嗽
成人の急性咳嗽でも最多原因はウイルス性上気道感染(風邪症候群)です 。次いで細菌性の市中肺炎(発熱、濃色痰を伴う咳嗽)も重要で、リスク因子として高齢、基礎疾患の有無に留意します 。一方、成人では急性気管支炎もしばしばみられ、ウイルス感染後の遷延する空咳が特徴ですが胸部X線では浸潤影を伴いません。基礎に慢性閉塞性肺疾患(COPD)をもつ喫煙者では、感染などを契機とした急性増悪により咳嗽・喘鳴が増悪します 。同様に気管支喘息患者では急性増悪が咳嗽の一因となりえます 。成人特有の原因として、急性肺水腫(心不全発作)では夜間の喘鳴混じりの咳嗽や粉紅色泡沫痰、肺塞栓症では突然の胸痛・息切れとともに乾性咳嗽や血痰がみられることがあります。これらは頻度は高くありませんが、生命に関わる鑑別疾患として念頭に置く必要があります。
成人における慢性咳嗽
慢性咳嗽を訴える成人の鑑別では、まず上気道咳嗽症候群(UACS)・喘息・胃食道逆流症(GERD)という3大要因を常に考慮します 。実際、器質的異常のない非喫煙者の慢性咳嗽の原因はこの3つが大部分を占めます 。UACSとはアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎などによる持続的な後鼻漏が気道を刺激して咳を引き起こす状態であり、慢性咳嗽の最も多い原因です 。気管支喘息も慢性咳嗽の主要因で、特に咳喘息(CVA)では喘鳴を伴わず咳のみが主症状です。GERD関連咳嗽も一般的で、胃酸の微小誤嚥や食道迷走神経反射により咳嗽が誘発されます 。喫煙者では慢性気管支炎(慢性閉塞性肺疾患の一型)が重要で、痰を伴う慢性咳嗽となります 。慢性咳嗽患者の5%程度は慢性気管支炎が原因との報告もあります 。また喘息がなくても気道の好酸球性炎症により咳嗽を呈する非喘息性好酸球性気管支炎や、ACE阻害薬内服による持続性の乾性咳嗽(女性に多い)も鑑別に上がります 。難治性のケースでは気管支拡張症(大量の膿性痰を伴う咳 )、肺結核や非結核性抗酸菌症 、間質性肺炎やサルコイドーシス、肺癌といった疾患の可能性も検討します 。これら重篤な疾患は胸部X線やCT、喀痰検査などでスクリーニング・除外が必要です 。なお成人では、咳嗽の原因が複数重複する例も少なくありません(例えば副鼻腔炎による後鼻漏と喫煙による気管支炎が共存するなど) 。そのため診療では問診・検査に加え、経験的治療に対する反応を見る診断的アプローチも有用です 。
3. 随伴症状による鑑別の変化
咳嗽に他の症状が伴う場合、それらの随伴所見や背景因子から鑑別の優先度が変化します。以下に主な随伴症状・状況ごとに鑑別すべき疾患の特徴を述べます。
- 発熱を伴う咳嗽: 発熱は感染症による咳嗽を示唆する重要な所見です。高熱と膿性痰を伴う咳嗽の場合、肺炎をまず疑います。典型的な細菌性肺炎では黄色〜緑色の膿性痰を伴う咳嗽と高熱・悪寒がみられます 。ウイルス性気道感染(インフルエンザなど)でも発熱と咳を来しますが、痰は少なく全身症状が強い傾向があります。一方、慢性咳嗽に発熱を伴う場合は注意が必要です。結核や肺膿瘍、膠原病に伴う間質性肺炎の憎悪などが考慮され、慢性経過でも発熱・血痰を認める場合は精査が推奨されます。
- 痰を伴う咳嗽: 咳嗽に喀痰の排出がみられる場合、湿性咳嗽(productive cough)と呼ばれ、気道に分泌物を貯留しうる疾患が示唆されます 。例えば慢性気管支炎(COPD)では慢性的な喀痰排出を伴う咳嗽が典型で 、気管支拡張症やびまん性汎細気管支炎でも大量の膿性痰を伴う頑固な咳嗽が続きます。急性では細菌性肺炎や蓄膿症(副鼻腔炎)による後鼻漏も湿性咳嗽の原因です。一方、乾性咳嗽(nonproductive cough)は痰を伴わない咳嗽で、気道分泌物ではなく直接的な気道粘膜刺激や炎症が原因の場合が多いです 。ウイルス性上気道炎後の遷延性咳嗽や咳喘息、アトピー咳嗽(非喘息性好酸球性気管支炎)、心因性咳嗽などは典型的な乾性咳嗽です 。またACE阻害薬内服による咳嗽も乾性で、「のどのイガイガ感」を伴うことが多い点が特徴です 。
- 喘鳴を伴う咳嗽: 呼気時の喘鳴(ぜんめい、wheezing)が聴取される咳嗽では、気道が狭窄・攣縮していることを示唆します。咳嗽とともに喘鳴や呼吸困難がある場合、気管支喘息が最も疑われます。実際、反復する咳と喘鳴は小児・成人を問わず喘息の症状であることが多いです 。喘息患者では夜間や運動時に発作的な喘鳴と咳込みを生じますが、咳嗽変異型喘息(CVA)では喘鳴は稀で咳のみが慢性的に持続します 。喘鳴を伴う咳嗽の鑑別には他にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)があります。COPDの急性増悪では呼吸困難の増悪とともに咳嗽・喘鳴が増加します 。乳幼児の場合、細気管支炎(RSウイルス感染など)でも喘鳴と咳がみられ、喘息との鑑別が必要です 。片側性の喘鳴や固執する局限性の喘鳴では気道異物や腫瘍による気道狭窄も考慮します。加えて、喘鳴様の音が聞こえても実際には上気道由来の場合(例:声帯麻痺や仮性クループによる吸気性喘鳴〈ストラidor〉)もあるため、呼吸音聴診により吸気か呼気かを確認することが重要です。
- 体重減少を伴う咳嗽: 咳嗽の経過中に体重減少や食欲不振など全身状態の低下がみられる場合、結核や悪性腫瘍を含む重大な疾患の可能性が高まります。例えば肺結核では、微熱や寝汗(盗汗)を伴う慢性の咳嗽に加え、食欲低下と体重減少がしばしば見られます 。結核では痰に血が混じることも多く、免疫低下状態にある人や高齢者で咳嗽・体重減少がみられたら胸部X線と喀痰検査による除外が必要です 。肺癌も体重減少を伴う慢性咳嗽の鑑別疾患であり、特に長期喫煙者で痰に血が混じる場合には早急な精査が推奨されます 。全身性の疾患では進行した心不全や膠原病などでも食思不振・体重減少とともに咳嗽が出現することがあります。いずれにせよ体重減少という“赤旗徴候”を伴う場合は、咳嗽単独の場合に比べ幅広い精密検査が必要です。
- 夜間咳嗽(夜間に悪化する咳): 夜間や明け方に咳嗽がひどくなる場合、日中にはない特異な要因が関与している可能性があります。もっとも典型的なのは気管支喘息で、喘息は夜間から明け方に気道が過敏になり症状が悪化しやすい特徴があります 。特に小児の咳喘息では夜間から早朝にかけて咳き込みが強く、しばしば夜間咳のみが唯一の症状となります。 また、**胃食道逆流症(GERD)**も横になる夜間に胃酸が逆流しやすく、就寝中から明け方にかけて咳嗽や喉の違和感が出現・悪化することがあります 。同様に、後鼻漏(慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎)は仰臥位で鼻汁が咽頭に流れ込みやすくなるため、夜間~朝方にかけて咳嗽や喉のイガイガ感を悪化させます 。一方、心不全(左心不全)の咳嗽も夜間に悪化し、横になると咳が出る・座ると楽になる(起坐呼吸)といったエピソードは心不全による肺うっ血を示唆します 。これとは逆に心因性(習慣性)咳嗽では、夜間睡眠中は咳が出ない(意識がない間は止まる)という特徴があります 。
- 季節性の咳嗽: 季節によって咳嗽が出現・悪化する場合、アレルギーや気候変動など環境因子の関与が示唆されます。季節性アレルギー(花粉症など)による鼻炎・後鼻漏は特定の花粉飛散時期に咳嗽を悪化させる典型的な要因です 。アレルギー性鼻炎ではくしゃみ・鼻汁だけでなく滴下する鼻汁が気道を刺激して乾性咳嗽を生じることがあります 。またアレルギー性喘息の患者では、花粉やカビの繁殖時期など特定の季節に喘息症状(咳嗽・喘鳴)が増悪することが知られています 。例えば秋季のブタクサ花粉や初冬の寒冷刺激で喘息発作が誘発されるケースがあります 。一方、季節の変わり目ごとに風邪をひいて咳が出る場合は、反復するウイルス感染(特に小児)や寒冷刺激による咳反射過敏も考えられます。季節性の咳嗽は本人のアレルギー素因や生活環境との関連を詳細に聴取し、必要に応じてアレルギー検査やピークフロー測定などで喘息の関与を評価します。
参考文献: UpToDate®や各種ガイドライン 、主要医学雑誌等 より作成しました。
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